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「毎日会社で会うもんね」 「そいうことです。連絡先知らなくても今まで困らなかったですからね、毎日、隣りの席にいるから。でもせっかくなんで、今日は帰る道すがら教えてもらいましょうかね」 「だね」  私は笑いながら、怜央の持つ傘の下に入る。星良さんとの相合い傘とは全く違って、気恥ずかしさがあった。怜央が私を好きだということを噛みしめる。いいのかな、久しぶりの恋愛がこんなにトントン拍子で。後で痛い目に遭わないかなと一人であれやこれや考えてしまい、半ば放心する。 「ちなみにこれも故意的な偶然ですからね」 「どれ?」 「傘が一本」 「会える確証がないからってゆったじゃん」 「言葉のあやですよ。確証はないですが、会えたときに傘が一本しかなければ、間違いなく相合い傘になります」  私はどうしようもない子どもを見るような気持ちで眉を寄せて笑う。 「偶然なんか作れるわけです。つまりあと一回、故意的な偶然を作り出せばもう運命じゃないですか?」 「さあ、それはわかんないけど」  偶然が三回続いたからって、それが作り物でも運命っていうのだろうかと本気で考え始めた。故意的な偶然が重なっても運命?そもそも故意的な時点で偶然じゃない気がするし、傘の下で、うーん、と唸り声をあげてしまう。 「濡れますよ」  怜央が左手を私の腰に伸ばし、ぐっと自分の方へと寄せる。手馴れた感じが小憎らしい。 「そんな目で見ないで下さい」 「どんな目」  顔は正面を向いたまま、上目遣いで怜央を見上げる。 「そんな目です」  怜央は笑った。いつものように薄い笑いだったが、目も口も笑っていたので、何だ、ちゃんと笑えるのだと思った。 「次はどんな偶然がいいですか」 「要望が通るの?」 「心がけます」 「んー、じゃあね、実は異世界から転生してきた元恋人で、生まれ変わった恋人を探しに来ました、みたいな」 「わかりづらっ」  怜央がヒヒヒと馬みたいに鼻で笑うので、私は声をあげて大笑いした。馬みたいな怜央もかわいいと思った自分は、もうダメかもしれないとあきらめて駅まで彼に寄り添った。
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