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 月曜日の朝、どんな顔をして会えばいいものかと恥ずかしく思いながら、システム開発部の扉の前、社員証で打刻する。不安に思いながら、ドアのキーを解除し、意味もないのに足音を立てないようにして自席についた。  それもそのはず、金曜日の夜、私は結局怜央の家に行ってしまったのだ。 「もう遅いからうちに来ませんか」 「えっとぉ……もう遅いから送りますよ、とか、早く帰った方がいいですよ、では?」 「結局、送り狼になると思いますけどいいですか」 「何で送り狼確定なの!」  私の大声に、怜央は目を細めて声を出さずに笑った。 「自分のことくらいわかりますよ。傘も一本しかないですし、いい考えじゃないですかね」 「買って帰るから大丈夫だよ」 「この前も買ってましたよね」 「傘は何本あっても困らない」  そんなことを言いながら、結局相合い傘のまま怜央の家に行ってしまった。私のメンタルの弱さは絹ごし豆腐。心の中では自分の頭を両手でぽかぽかと殴っていた。  怜央のマンションは一人暮らしにしては広く、男の子っぽい乱雑さはあったが概ねキレイだった。怜央がタオルを渡してくれたので、雨に濡れた部分を丁寧に拭き取る。顔も濡れたが、メイクが落ちるので強くは拭けない。押さえるようにして水分を吸い込ませた。 「広いねぇ……」  黙ってるのもおかしいので、そんなどうでもいい話を投げかけてみる。 「一緒に住みますか?」 「またすぐそういうことを言う……」  私の恨めしい顔を見て怜央は息だけで笑った。私は無性に恥ずかしくなって顔を赤らめる。今日は怜央がずっと変なのでこちらまで伝染しておかしくなってしまったようだ。  怜央が私の目の前に立ち見下ろしてくる。前髪が湿っていたが、小さな白い顔はタオルで拭かれた後なのか、ふんわり温かな柔らかい空気をまとっていた。会社で見る怜央とはちょっと違って、角が丸くなったように見えると同時に艶っぽさがある。 「故意的な偶然ですけど、ちょっとは好きになってもらえました?」 「怜央のことはずっと好きだよ。男として見てなかっただけで」 「家に来てくれたってことは、少しは男に見えてきた?それともその逆?」 「男に……見えてきました」 「素直でいいっすね」  怜央のいつもの薄い笑いに照れが加わっているようだった。俯き加減がかわいらしいし、横顔のシルエットが相変わらず美しい。鼻と顎のラインが昔から好きだった。無論、これまでは男として意識していたわけではなかったが。  怜央が手を伸ばして恐る恐る私の頭髪に触れた。
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