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「……今日、泊まりに来たこととか、会社のみんなには内緒だからね」
「俺が谷さんを好きなことも?」
「好きなの?」
「好きですね。好きじゃない人家に呼ばないでしょう」
「……好きなことも秘密」
「じゃあ、俺と谷さんが付き合ってることも?」
「付き合うの?」
怜央は薄い表情ながらもしかめっ面をしているようだった。
「好きな人とは付き合いたいものでしょう。家には来たけど付き合うのはイヤですか?」
「イヤ……じゃない。とにかく全部秘密、落ち着くまでは」
何が落ち着くんだろうと自問自答しながら、わけもわからず私たちは付き合うことになってしまった。
「やった、うれしい」
怜央は細く長い手を私の背中に伸ばして自分の方へと引き寄せ抱きしめる。引き寄せ足りなかったのか、いったん手を離し、もう一度強く抱きしめた。ぎゅっとくっつき合った二人の体が熱いのに心地よい。お風呂の中にいるみたい。
私も怜央の薄い背中に手を回し彼を見上げると、勢いよく口を塞がれた。
「早っ」
私が思わず顔を離して笑うと、
「いやー、もう、部屋に入ってからずうっとしたかったですもん。よく我慢した、俺」
と、怜央も笑った。たぶん、かなりの大笑いだけど相変わらず表情はほとんど変わらないので、少しくらい脅かしてやりたいといういたずら心に火がつく。
私は怜央が笑っている隙に背伸びをして、両手で怜央の頬を挟むと彼の唇をペロッと舐めた。
「ふふふ、くすぐったいですよ」
怜央が眉を寄せ、思った以上の反応をくれたのでもうそれだけで私は満足だった。
怜央はもう一度、今度はゆっくり、ゆっくりと私の表情を確かめるように顔を近づけてきた。意外と意地悪なところがあるんだということをこのとき初めて知った。
そうやって結局二日間お泊まりし、日曜日の夜に自分の家にやっとこさ帰った。その翌朝が今日の今である。
「おはようございます」
昨日の夜までずっと近くにあった声が聞こえて勢いよく振り返ると、いつのまにか出社した怜央がしれっとした顔で自席に座っている。
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