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「お、おはようございます」
つーんと澄ました顔が小憎らしい。そういえばいつもこんな顔だった。昨日と一昨日がおかしかっただけ。夢かもしれない。と気を取り直している間に始業時間になったので、メールチェックを開始した。
仕事の合間にふと顔を上げると、ちょうどフロアに星良さんが入ってきた。何か用事だと思うが、営業部の人間が入ってくるのは珍しいことだった。
さらになぜかこちらの方へ向かって歩いてくる。目があったら声をかけられるかもしれないと思いPC画面に集中して、一心不乱に仕事に集中している振りをした。実際は全然集中しておらず、同じ画面をずっと眺めているだけで意識は星良さんにあった。
彼の動向を左半身全体で探るが、明らかに私の席の後ろ側を通ることになる。もしや、私に用事か?いやいや、そんなことあるはずない、などとありえない妄想まで始めてしまう始末で、星良さんの足音ばかりに気を取られていた。
「あれ、谷さん!お疲れさまです」
勘違いではなく、間違いなく名前を呼ばれたので顔を上げざるをえない。
「星良さん、お疲れさまです」
「怜央の隣りの席だったんですね」
……怜央の隣りの席だったんですね?その言葉に体が凍りつく。
もしかして、星良さんは怜央と知り合いなの?怜央はそんなこと一言も言ってなかったのに、もしかして友達?怜央と星良さんは友人関係なの?
「え、あ、はい。そうです、隣りです」
私の声は当然のごとく上擦る。
「怜央のことよろしくね」
さらっと言葉をかけてそのまま怜央の方へと移動した。
「怜央、メール見た?」
特に驚く様子もなく、怜央はいつもどおりゆったりと顔を上げた。
「見たよ」
「DMも?」
「見た見た」
「じゃあ午後イチの会議わかってるよな?」
「わかってる」
怜央は面倒くさそうに答えた、次期社長に向かって。私は何が何やらわからずただ呆然として二人のやり取りを見つめた。
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