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「チェック入ってないから、サボる気かと思ってさ」
「まさか。大事な会議にはちゃんと出席するよ」
「ならいいけど。じゃ、また後でな」
「うん」
星良さんはひらひら手を振ると元来た道を颯爽と戻っていった。ドアから出ていったのを確認するとすぐに振り返り尋ねる。
「何で?」
「何がです?」
「何で星良さんと知り合いなの?ため口だったじゃん!」
「何でってそりゃあ……従兄弟ですもん」
「従兄弟ッ!?」
フロア中に私の声が響き渡り、恥ずかしくなって机より下に頭を隠した。
「従兄弟って……まさか、怜央も御曹司なの?」
「そんな大げさな。でも、まあ、御曹司といえば御曹司ですかね」
「従兄弟ってことは……」
「現社長の息子ですよ。次男です」
私は椅子から転げ落ちそうな勢いだったが、何とか踏みとどまり椅子から滑り落ちて床のタイルカーペットにへなへなと座り込む。
「そういえば、息子三人のうち誰かは帰ってくるって噂があったようななかったような……」
「そう。それです、それ」
「な、何でゆってくれなかったの」
「何でって言われてもみんな知ってますし。このフロアで知らないの谷さんくらいじゃないですかね」
「何で私だけ……」
「それは俺も不思議ですけど……友達少ないんじゃないですか」
こんなときに冗談を言うなんて、と私は思いきり怜央を睨んだが、彼は彼で素直に答えているだけのようだった。いつものように顔に表情はない。いや、心なしかちょっと笑っているようにも……?
「確かに友達は少ないけどぉ……いや、だってみんなソフトの組み込み系にいっちゃうんだもん。私だけハードなんだもん」
涙が出そうになるのを気持ちだけで堪えた。
「別に、隠してたわけじゃないですからね?」
「うん、わかってる。そりゃ、そうだよね。わざわざ言うのもあれだしね」
「そうなんです。聞かれてもないのに自分から言うのもおかしいですし……だから言わなかっただけです。これも故意的な偶然ですかね」
「う、うそぉ」
今度こそ涙がこぼれ落ちるのがわかった。
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