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再会は思った以上に早かった。
夏の夕立はよくあることで、夕方というかほぼ夜なのだが……と思いながらビルの外の軒下に立つ。この大雨はデジャブかなと笑いそうになるが、もちろん今日も傘を持っていない。
そう待たないうちに隣で男性が滑らかに傘を開く音が聞こえた。私みたいにもたつくことはなく、それが一連の動作であるかのように自動ドアから出てくると周りに人がいないことを確認しているのが横目でも見て取れた。鮮やかに傘を開いた瞬間、季節はとっくに移り変わっているのに紫陽花が咲いているように見えた。
「あれ?この前の……」
先に話しかけてきたのは彼だった。
「え?……ああっ!」
あのとき傘を貸してくれたスーツの男性だ。前回同様に仕立てのいいスーツだったが、スーツの形もシャツの色も違うように見える。営業ならではの着まわしテクだろうが、かなり成功している。営業マンというのはみんなこんなに小洒落ているのだろうか。
「この前はありがとうございました。大変助かりました」
「いえいえ。今日も傘ないんですね」
男性が穏やかに笑うと、紫陽花も一緒に揺れた。
「す、すみません。わざとじゃなくて、朝降ってないとつい忘れちゃうんですよね。ごめんなさい、今度傘持ってきますね」
「いえいえ、あれはもうあげたものなので。気持ち悪かったら捨てちゃってかまわないのでわざわざ持ってこなくていいですよ。あれ持って晴れた日に電車に乗るのは、どう考えても邪魔でしょう?」
男性はにっこりと微笑んだ。
「気持ち悪いとか全然ないです!本当にありがとうございました。ホントそれだけは言いたくて」
私は深く頭を下げると、腰を二つに折り曲げた。
「入っていきますか?」
男性は笑みを浮かべたまま尋ねた。
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