お迎えドラゴン

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 友だちの家にお呼ばれされた弟が、帰ってくるなり言った。 「ぼくもドラゴン飼いたい! 飼っていい?」 「いや、ダメでしょ。それよりこっち手伝いな」  私は、餃子のタネを包む手を止めずに言った。うちは三人家族だけど、私は運動部、弟は食べ盛りなので、一度に200個は作る。働かざる者食うべからずなのである。 「姉ちゃんには聞いてねーもん! ママ、ドラゴン飼っていいでしょ?」  弟は私の返事を無視した。同じく餃子を作っていた母さんは、困ったように眉を下げた。 「あのね、ドラゴンを飼うって大変だよ? 毎日エサをやって、散歩もしなきゃいけないんだよ」 「わかってる! ちゃんとエサやる! 散歩もする!」 「それだけじゃないの。生き物だから、病気になることもあるし。ちゃんとしつけないと、ご近所を滅ぼしちゃうことも……」  ここまできて、やんわり拒まれていることに気づいたらしい。弟の目に涙が盛り上がり始めた。 「ペットを飼いたいなら、もっと小さい動物にしよう? カメさんとか」  どこまでも優しい母さんが代案を出す。だが、弟はついに泣き出した。 「やだやだやだ! ドラゴン飼いたいよお! お世話もちゃんとするからあ! 一生のお願い!」  母さんがなだめようとしても、全く聞く耳を持たない。しまいには床に転がってジタバタし始めた。 「いいかげんにしろ!」  私は餃子の皮を置き、立ち上がった。 「ドラゴンって、すっごく凶暴なんだよ? あんた、ドラゴンが暴れたら立ち向かえんの? ムリムリ! 絶対ムリだね!」  女バレの後輩たちから『鬼の副部長』と恐れられる声でドスをきかせると、弟は泣きわめくのやめた。が、まだ諦められないらしく、床上でいじいじしながら「ドラゴン……」とつぶやいている。 「さあ、餃子焼いて食べよっか!」  母さんがその場をとりなして、弟の夢はついえたかのように見えた。  ひと月後。  一週間の夏合宿から戻って来た私に、弟が満面の笑みで報告してきた。 「爺ちゃんがドラゴン買ってくれた!」 「はああ?」 「プレゼントだって、連れて来られたの。断っても、防犯面で安心だとか情操教育に良いとか、色々言われて置いていかれちゃって……」  申し訳なさそうな母さんの口調にピンときた。父方の祖父は、父さん似の弟を溺愛している。弟と祖父はグルに違いなかった。口うるさい私の外出中を狙ってきたのがその証拠だ。 「姉ちゃん見て! こっちだよ!」  笑顔あふれる弟に腹パンしてやりたい気持ちを抑え、呼ばれた方に向かう。猫の額くらいの庭に、ヒグマ並みに大きな生き物が丸くなっていた。
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