25人が本棚に入れています
本棚に追加
それは、すごくキレイなドラゴンだった。
全身を覆う水色のつやつやした鱗が、太陽の光を反射してきらきらと輝く。背中には、首の後ろから長いしっぽの先まで、青くて固そうなトゲが等間隔に生えていた。しなやかな筋肉に覆われた体に、太く、たくましい後ろ脚。前脚は大きな翼と一体化している。
「翼竜だ……」
私のつぶやきに、ドラゴンは顔を上げて振り返った。馬のような耳が、ぴくぴくと動いている。角は生えていない。金色の瞳は中心に近づくほど緑がかり、宝石のように光っている。私たちの姿を認めると、瞳孔が猫の目のようにすぼまった。
「名前は『アガガ』っていうんだよ!」
何それ、だっせえ。と思っていたら、ドラゴンがあくびをした。小4男子の頭を丸かじりできるほど巨大な口を開き、「アガガ……」と声をもらす。それで名前の由来がわかった。
こうして、我が家は(不本意にも)ドラゴンをお迎えすることになった。
アガガの世話は、予想以上に大変だった。
まずはエサ。これは、市販のドラゴンフードを一日二回与えればいい。だが一回の量が多かった。樽買いしたエサを毎日スコップですくい、ドラゴン用食器に入れる作業は、もはや雪かきに近い。弟一人では時間がかかるので、私が手伝うことになった。
散歩だってひと苦労だ。ワイバーンは基本、翼で移動する。気ままに空を飛び回ろうとするアガガに対して、その背に乗った飼い主は散歩ルートから外れないよう、常に手綱を握っている必要があった。また鞍を付けるとはいえ、長時間乗っていると地味にお尻が痛くなる。これも小学生の弟だけに任せるわけにはいかず、結局私が付き添っている。
そしてアガガのしつけに至っては、ほぼ私の仕事になってしまった。
飼われていても野性を失わないドラゴンのアガガは、気に入らないことがあると反発するし、暴れようとする。これを抑えるためには、私が体育会系のスキルを発揮するしかなかったのだ。
「アガガ、庭木を引っこ抜くのはやめなさい!」
「アガガッ! ガガッ!」
「言い訳すんな! 伏せ! オラさっさとしろや!」
庭で互いに荒ぶっていたら、さすがに母さんに注意された。
その母さんにだけは、アガガの世話をさせないようにしている。うちは母子家庭で、母さんはただでさえ忙しいのだ。これ以上の迷惑をかけたくない。
「そもそも、母さんにドラゴンの世話はつらいだろうし」
ようやく落ち着いたアガガの、つやつやした背中を撫でる。アガガはもっと撫でろといわんばかりに仰向けになった。
私だって、最初はドラゴンを飼うことに反対だった。でも今は、甘えるアガガをちょっと可愛いと思ってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!