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数日後、先に話を振ってきたのは母さんの方だった。
「卒業後の進路って、何か考えているの?」
私は餃子のひだを作る手を止めた。横で参考書を開いていた弟が聞き耳を立てる気配がする。
「就職するよ。前から言ってる通り」
「そう……。就職先に希望はあるの? やりたい仕事とか」
「うーん」
何と言って切り出そうか迷っていると、母さんは思いがけないことを言った。
「考えたんだけど……アガガを、どこかに預けられないかな」
私と弟は、揃って顔を上げた。母さんは真剣な顔をしていた。
「もうずっと、アガガの世話はお姉ちゃんに任せっきりだったでしょ? でも、就職したらもっと忙しくなるし、そのうち家を出ることもあるだろうし……」
「いや、まだ出る気は無いよ? 世話だって、忙しいときは二人で分担するし」
私の言葉に弟もうなずく。でも母さんは納得しなかった。
「アガガありきで将来のことを決めて欲しくないの。二人とも、好きなことをして欲しい。もちろん、私のことも気にしなくていいのよ」
「気にするなって……無理でしょ!」
気づけば、私は立ち上がっていた。
「家族なんだから、私は母さんのこと気にするよ。アガガのことも。家族だから」
私は母さんの目を見て言った。
「私、騎士団に入ろうと思ってる」
「えっ!」
声を上げたのは弟だ。母さんの表情はあまり変わらない。最初から気づいていたのかもしれなかった。
「体を動かすのが好きだし、やりがいもあると思う。騎士団なら国家公務員だし。半年は訓練学校にかんづめになるけど、その後は家から通えるから……」
「だめよ」
母さんが遮った。いつもは柔らかな声が、硬く響いた。
「なんで。さっきは好きなことをしろって言ったじゃん」
「本当にそうなの? 私やアガガの面倒を見るために、無理してるんじゃない?」
「無理なんかしてない。むしろ向いてると思ってる」
「だとしても……騎士団だけはだめ。危険な仕事なのよ」
「私が知らないと思う? 父親を亡くしてるのにさ」
そう返した声は、自分で意図した以上に刺々しかった。母さんの顔色が変わる。
「ちょっと、二人とも……」
弟が口をはさみかけたが、私はすでに席を離れていた。そのままリビングの掃き出し窓を開け、外に出る。庭で丸くなっていたアガガが、私を見て首を上げた。私はアガガに飛び乗った。
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