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私たちの父さんは、騎士団で騎竜隊に所属していた。その頃の記憶はほとんどないけれど、幼い私を抱いてドラゴンに騎乗する父さんの写真は、今でも私の部屋に飾られている。
弟が生まれて間もない頃、父さんは災害派遣先で二次災害に巻き込まれ、亡くなった。そのとき乗っていたドラゴンも、父さんをかばうように死んでいたらしい。
満天の星空をアガガは突き進む。眼下に広がる街の灯りはまばらになり、やがて人工の光は一つも見えなくなった。
夜の冷たい空気が頬を刺す。皮膚の感覚が麻痺することで、アガガと一体化していくような気がして、私はいっそう強くアガガにしがみついた。母さんの娘でも弟の姉でもなく、引き続き女バレで鬼の副部長をしているJKでもない。就職の悩みもない。自由でわがままなドラゴンに、私はなってしまいたい。
しばらくするとアガガが速度を落とし始め、やがて完全に止まった。私はアガガの背から身を起こし、辺りを眺めた。
「海だ……」
私たちの下に、黒い大きなうねりが広がっていた。だいぶ沖まで来たらしく、周りを見回しても岸がどちらの方向にあるのかわからない。
アガガが長い首を巡らす。きらめく瞳が私の表情をうかがっているようだった。
「……心配してくれた?」
「ガガ」
「そっか……ありがとう」
さっき母さんに言ったことを思い出す。招かれざる客だったアガガのことを、私はいつの間にか家族の一員として受け入れていた。たくさん迷惑をかけられながら、一方では救われている。それが家族だと思った。
ポケットに入れていた端末が着信を告げる。取り出してみると、弟からのメッセージだった。
『餃子焼けたよ。母さん反省してる。就職の話もちゃんとしたいって』
こうやって美味しいところを持って行くのが、奴は上手い。
「はーあ! 帰って謝るか!」
私は腕を天に突き上げ、大きく伸びをした。アガガがつられたように大きく息を吸い込む。
「アッガァーー!」
そして次の瞬間、炎を吐いた。紫色の巨大な火の玉が海面を照らし出す。飛び出した炎は徐々に拡散し、完全に消えたときにはマッチ棒を燃やしたような匂いが残った。
「……アガガ、炎を吐けたの?」
「ガガ」
再び振り返ったアガガは誇らしげだ。私を励ますために披露してくれたのかもしれない。だが飼いドラゴンが炎を吐く場合、火災保険料が爆上がりすると聞いたことがある。この件はそっとしておこうと私は思った。
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