第一章 スカウト

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 相手のピッチャーは左のサイドスローで左バッターを得意とする、ブラキナファソの左殺しのクワメ・ウィリアム。この少年も今回のトライアウトで日本の高校に行きたいと本格的に思っている一人である。 「まさか、マジャールがここまで剛速球を投げるとはな。とりあえず、ラシャドを抑えて左を抑えて、左キラーの名をアピールしなきゃいかんな。」  キャッチャーとサイン交換をしてから、一回裏の攻撃の合図が出た。クワメの投げたボールはラシャドの体から真横に曲がって、内角ギリギリに攻めた。 「ストライク!」 「球は100kmと遅いものの、コントロールよくスライダーを決めれるのは大したもんやな。さて、ラシャドくんはどうする?」  初球を理想的なコースに決めることができたクワメはニコニコしながら、キャッチャーからのボールを受け取った。緊張感から解放されたのかもしれない。ラシャドは余裕な感じの笑みが消えた。 「さすが、クワメくん。最初の一球目をあんないいところに決められるなんてな。あんなところにスライダーに決められたら、打てないよ。」  二球目のストレートも見逃し、クワメはラシャドを追い込んだ。自分もマジャールみたいに三球三振をして、アピールしたい。そんな欲が顔に出ていることをラシャドは見逃さなかった。 (これは遊び球なしで、三振取ろうと思っているな。となると、三球目はこのコースのこのボールしかない!)  クワメはキャッチャーのサインを何度も首を横に振り、自分の考えているコースとボールが出た時に縦に振った。そして、クワメの一番自信のあるスライダーをキャッチャーの要求しているところに投げた。しかし、そのコースと球種をラシャドは狙っていた。 「アウトローのスライダー! 読み通り!」  コースを読んでフルスイングして飛んだボールは左中間に飛び、長打コースになった。二塁まで軽々と進み、三塁まで行こうとしたものの、センターのナシールがノーバンでサードまで返球したので、二塁で止まった。 「やるな、ナシール。まあ、二塁まで行けたからいいか。」
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