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第一章 スカウト
あの少年たちと出会って野球のイロハを教えた後、雄洋は四年後にまた来ることを約束して、日本に帰国した。その間、野球を教えている少年の保護者に石を投げられたり、強制的に自分の子どもを帰らせたりと苦労することはあったが、野球の楽しさを知った少年と一緒に野球をする楽しさと大きな金の木になることを何度も伝えることで、聞き入れてくれる人も増えていき、最後の日はみんなに惜しまれつつ、この町から去ることができた。
それから、同じ青年海外協力隊のメンバーと協力して、ブラキナファソにグローブやユニフォームなどの野球器具を送りながらも、なかなかブラキナファソに行く機会ができずにいた。
そして、三年後。雄洋は母校である伏尾山高校の近くの小さなレストラン「ドンドン」の店長として働きながら、休みの日は伏尾山高校の野球部のボランティアのコーチをしたり、ブラキナファソの野球の支援をしたりと、野球に対して精力的に活動していた。
夏休みの練習が終わった後、野球部の顧問で雄洋が野球部にいた時の先輩である内藤将司は「ドンドン」のカウンターでビールを開けて、豪快に飲み干した。
「ぷわー、部活が終わった後のビールはたまんねえ!」
ご機嫌よくいつもの部活の愚痴を聞きながら、雄洋はボーっと天井を見つめた。
(あいつら元気にしてるのかな?)
「あーあ、どっか野球のうまい中学生とかおらんのかね……」
(そっかあ、あいつらも年齢ではもう中三かあ……)
「雄洋よ、ブラキナファソに野球のうまい中学生とかおる?」
「おるって言われてもな~」
その時、ぐでんぐでんに酔っぱらった将司から耳を疑うような話が流れた。
「来年度までに、甲子園に行かないと俺たちの野球部も消えてしまうし、学校も廃校するんやって……」
「おい、ちょっと待て、いや待ってください!」
雄洋は開けたビールをカウンターから片づけて、テンパりながら将司の席の隣に座った。
「先輩、それどういうことなんすか?」
「どういうことって、そういうことや。」
「いや、そんな大事なことをそう簡単に言われても困りますよ。来年、甲子園出なかったら、学校まで消えるっておかしないすか?」
「だって、理事長にそう言われてんやから、しゃあないやん……」
「しゃあないって……、噓やん。」
雄洋は呆然として、二人の間に沈黙が流れた。甲子園に出たらいいじゃんと思うかもしれないが、伏尾山高校がある大阪府の予選大会はどの都道府県よりも厳しく、良くて三回戦止まりのこの高校が甲子園に行くのはゲームでない限りまず無理なことである。ましてや、来年までとなると絶望的である。
「だからだ、雄洋。今から、ブラキナファソに行って選手を獲得するんや! あそこなら、お前のつてで何とかいけるやろ!」
「何とかって……。けど、伏尾山高校って、海外の野球留学生って認められてるん? 廃校になるぐらいなんやから、奨学金などの制度とかないやろ?」
「それは大丈夫。あの理事長自体は他のビジネスでうまくいっているから、俺が説得して何とかするわ。あのおっさんはただ無駄なところに金を使いたくないだけやし。」
「学校経営が無駄って。」
二人が話していると、階段から降りてきた雄洋の妻、琴美があくびをしながら降りてきた。
「行ってきたら、ブラキナファソに? 店は私がなんとかするから。」
「いやあ、そんな。」
「野球、好きなんでしょ?ほら、準備して、さっさと行きなさい。」
雄洋は琴美が言われるがまま準備した。そして、琴美はブラキナファソ行のチケットをネットパパッと予約して、その画面を雄洋に見せた。
「ということで、明日の朝に関空に行って、ブラキナファソに行ってきてや!」
「行動早すぎへん?」
「頼むぞ、雄洋!」
「ちなみに、連れてきたブラキナファソの人たちの家はここにするから! お金は私の副業で稼いでいるから、大丈夫やで!」
雄洋はたくさん突っ込みたいところがあったが、流されるがまま時間が過ぎていった。そして、早朝に起こされた雄洋はボストンバッグを持って、ブラキナファソに向かうのであった。
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