第一章 スカウト

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 このグラウンドに集まった三十人の十五歳の少年は二つのチームで分けられた。ピッチャーで右投右打のジャマールとキャッチャーの右投右打アキームと内野ならどこでも守れる右投左打のラシャドがいるチームと外野の右投右打ナシールがいるチームとなり、ジャマールのチームが後攻になった。ジャマールはグローブを持って、マウンドに立った。 「さて、どんだけうまくなっているかな……」  リラックスして見ている雄洋と正反対に、バッターは緊張のあまりブルブル震えていた。 (もし打てなかったらどうしよう……)  マウンドにいるジャマールは興奮しながら、雄洋の方を向いた。そして、ボールを握りしめ、腕を振りかぶり、キャッチャーミットにめがけて運命の第一球を投げた。 (これが三年間、ほぼ毎日練習した成果だ!) パーン!!! 「ス、ストライク!」  そのボールは強烈なミット音を鳴らせて、にぎやかだったグラウンド内をシーンと黙らせた。ある人はジャマールがあんな球を投げるのかと驚き、ある人は絶望の顔をして下を向いた。雄洋は背筋を伸ばしてから、スピードガンを見た。すると、ありえない数字がそこに表示された。 「140kmだと!? いや、何かの間違いだ。そんなわけがない! 暑さでスピードガンが狂っとるんや!?」  中学三年生で130km越したらなら間違いなく怪物ピッチャーなのに、ジャマールはそれより10kmを越えたストレートを投げるのだ。プロ野球選手になった人でも、140kmを越した例はあまり見ない。だから、雄洋は目を疑ったのだ。  キャッチャーのアキームは苦笑いをしながら、返球した。 (今日は手が痛くて、バットが振れないかも……)  ジャマールは上機嫌だった。ど真ん中であったものの、仲のいい4人以外に本気の投球を見せたことがなかったので、周りの反応がとても気持ちいいものであった。そして、また同じストレートを思いっきり投げた。  パーン!!!  バッターはど真ん中であっても、怖くて振ることができなかった。雄洋は再びスピードガンを確かめた。 「また140kmだ。ホンマに出てるんやな。ありえへんは……」 「アキーム、最後もストレートいくわ!」  三球目。バッターにストレートを投げると宣告したジャマールは明らかにボールとわかる釣り球を投げた。しかし、自分をアピールすることに必死になっていたバッターはわかっていても振ってしまい、三球三振で先頭打者をアウトにした。 「おいおい、最後は142kmかいな。ありゃ、打てんわ。」  雄洋は目の前に起こったことが夢かのように笑うことしかできなかった。それはとなりにいたジェイジェイも同じである。  マジャールがマウンドで大笑いしている時に、アキームがサインを出した。そのサインを確認したマジャールは不機嫌そうにしながらも、投球フォームに入った。投げたボールは先頭打者の時と比べて、球速は遅かったものの……。 「力を抜いての130km近くのボールを外角や内角低めに丁寧に投げることが出来るのか? 先頭打者の時と比べて遅いかもしれないけど、それでも15歳の少年が簡単に打てるスピードじゃないからな。」  この調子でマジャールは二、三番の打者を三振にすることが出来て、ベンチに向かって走っていった。ショートで守っていたラシャドがマジャールの背中を叩いた。 「これじゃ、俺の守備がアピールできないじゃないか、このやろう! ナイスピッチング、マジャール!」 「どうも。アキーム、手大丈夫か?」 「うん、大丈夫。やっぱりすごいや、マジャール。」 「さて、行くか。」  ラシャドは水筒に入っている水を飲み、ヘルメットをかぶって、四股を踏んでからバッターボックスに向かうのであった。
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