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クワメは訳が分からなかった。三年間の間、ラシャドに一度もヒット性の当たりを飛ばしたこともなく、この日に臨み、二球とも手も出せない感じを出していたから、どうして自分の最高のボールがあそこまで飛ばされたのかが理解できなかった。
「左対左でのアウトローギリギリのスライダーを、あんな綺麗に流して打つとは大したもんや。」
雄洋は拍手をしつつ、ラシャドのバッティングに感心した。
キャッチャーの声かけで心を切り替えようとしているクワメを見て、ラシャドは不適の笑みを浮かべていた。
「これで終わりと思っていたら、痛い目にあいますぜ……。」
二番バッターが右打席に立ち、クワメがランナーのことを気にせずに、投球フォームに入った時、ラシャドが盗塁をした。
「初球でいきなり盗塁だと!」
思いがけない出来事にボールが大きくそれ、キャッチャーは捕るのが精一杯で三塁に投げることが出来なかった。予想もしないプレーに、ベンチから歓声が飛んだ。
「ナイスプレー!」
キャッチャーはテンパっているクワメを落ち着かせながら、返球した。
「さっきのはまぐれまぐれ! もう走ってこないからバッターに集中していこう!」
キャッチャーの声かけを聞いて、雄洋のとなりにいたジェイジェイは微笑んでいたが、雄洋はラシャドの賢さに気づいていた。
「足に自信があって、ピッチャーがランナーにまったく気にしていなかったことを気づいてすかさず盗塁とはな。このまま、おとなしく三塁ベースにいるとは思えんな……。」
その時、ラシャドが大きな声でバッターに向かって指示を出した。
「おーい、次の球は絶対にスクイズしろよ!」
それを聞いたバッターはきょとんとし、バッテリーやフィールドプレーヤーは大笑いし、ベンチからはヤジが飛んできた。
「何を言ってるんだ、ラシャド!」
「敵に聞こえるように作戦教えて、どうすんねん!?」
クワメは次の球を外すことだけに集中できることで、自分の中で落ち着きを取り戻せてきた。一回ランナーを見て、ニヤニヤ笑ってキャッチャーミットを見た。
(ラシャドの馬鹿が。ここで自らチャンスをつぶすとはな!)
投球フォームに入り、キャッチャーが構えている外角を大きく離した。もちろん、バットが届くわけがなく二人は勝ち誇ったかのように左側を見た。しかし、二人にとってまたありえない状況が目の前にあった。なんと、もうラシャドの右足がホームベースに着いていたのだ。
「はい、一点。実質ホームランだね!」
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