憎悪の声

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「嘘だろ、マジかよ」  瀧本の話に紺堂は顔を歪めている。  どういう流れでこんな話になったのか分からないが、自分のことをこんなにも語ったのは久しぶりだ。  もう一年になる、奏太の連絡先を消してから。 「それで、その奏太のことどうしたの? 殴った?」 「いや、会ってない」 「なんで? だってさ、ずっと隠れて付き合ってたんだろ? その女も最低だけど、親友だったそいつはマジクソだろ」  紺堂が語気を強めて怒りを露わにする。まるで自分のことのように。 「いや、もういいんだよ。もうどうでも」 「優し過ぎるだろお前。僕だったら、殺すね。そんなやつマジで。ああ、なんか自分のことみたいにムカついてきた」  怒りという感情が自分の中にあるのかどうか、それすらも分からない。今はもう、過去のことと思っている。だが少しだけ、語りながら奏太のことを想像したことで怒りの種火のようなものが点火した気がした。  果たしてそれが炎になるのかどうか。 「親友と彼女を一気に失うって、本当に最悪だろ。僕はそんな経験ないけど、殺したいほど憎いやつはいるよ。高校生の頃ずっとイジメられててさ、神代ってやつのこと思い出すと腹わたが煮え繰り返る」  紺堂の目は瀧本の背後を見つめていたが、相当な憎しみが感じられた。  童顔で優しい見た目の人間が怒るとこんなにも怖いのか。  彼はまるで中学生のように童顔で、アルバイト先のファミレスで働く主婦のおばさんたちからも人気が高い。ただ、それを嬉しがる様子はなく、彼女たちが帰ると瀧本だけに分かるように、「マジであのババアたちウザい」と声を殺して毒を吐く姿が印象的であった。 「この部屋に聞こえる声ってさ、マジで殺意がこもってるよな。本当に死んで欲しいって感じで」  雨が降り続く夜空を見ながら、紺堂が呟く。  瀧本は答えなかったが、彼の声に反応するかのように記憶の片隅に追いやっていた奏太の顔が浮かんだ。  奏太が、本当に死んでくれたら、どれだけ……。
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