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◇◇◇
紺堂の家で寝泊まりをするようになって二週間が過ぎた。
その中で、すでに二回聞いていた。
「クソが! サイトウ死ね! マジで死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」
中年男性のおぞましい声。それともう一つ、若い女性の声だ。
「マイコ! タニグチマイコ! 死んで死んで死んで! 死ね死ね死ね! あんたなんか死ねばいい! 早く死ねぇぇぇぇ!」
心が抉られるような激しい怒りの声。
瀧本は夕立があると必ず高性能のマイクを取り付けたデジカメで録音をしていた。
その時に動画も撮影しているのだが、霊的な何かが映っていることはない。部屋に聞こえるおぞましい声だけが記録されている。
そのデータをスマホに移し、いつでも再生出来るようにしていた。
「なあ、もうやめよう。霊媒師とかにお願いしてさ、お祓いしてもらった方がいいって」
紺堂はかすれた声でそう話す。
「もう少しだけ。あと一人か二人ぐらい録音したらそうしよう。こういうのはさ、少しでも証拠を増やしておいた方がいいんだって」
「なんだよ証拠って」
「まあいいじゃん。でさ、一個気づいたことがあるんだけど、なんか声が反響してなかったか? トンネルの中とかにでもいるみたいに」
「知らないよそんなの」
「え、じゃあもう一回聞き直して」
「いいって! 何回も聞きたくないんだよこっちは」
「まあそうだよな」
怒った紺堂は飲み物を買いに外へ出て行ってしまった。
一人残された瀧本はこの声について考えてみる。
彼がこの憎悪の声を聞いたのは、これで三回目だ。そのいずれも悪意がこもっていて、怒りに満ち溢れていた。
ヤマガタ、サイトウ、タニグチマイコ。
出てきた名前に共通点はなく、叫び声を上げているのも男女で年齢も違う。紺堂が初めて声を聞いた時も誰かの名前を言っていたそうだ。名前は忘れたらしいが。
なぜこの部屋で声が聞こえるのか、その謎は未だに解決されてはいない。
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