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今日の夕方も雨が降るとテレビで言っていた。空は快晴で雨の気配などないのだが、ここ数日はなぜか夕立が頻繁に来る。それも激しい雨が。
まるで、二人に声を聞かせるために降り出すかのように。
夜からは二人ともバイトが入っているので、家を空けなければいけない。
それまでに声が聞こえるのか。
瀧本は何をする訳でもなく、ダラダラと時間を潰す。とにかく早く夕方になってほしかった。
その間も紺堂は何度も時計を見やり、ため息をつく。窓の外を眺めて、「雨降らなくてもいいのに」と呟く。
そんな紺堂の姿を見て、瀧本は少し可哀想に思えた。
ここは紺堂の家だ。自分が住んでいる訳じゃない。夕立が来ると毎度恐ろしい声が聞こえるなんて、確かにいい気分ではない。
「分かった。これでラストにしよう」
「え?」
「今日、声が聞こえたら、それで終わり」
「終わり?」
「ああ。音声を聞いてもらってさ、お祓いもしてもらって、それでも嫌なら引っ越ししよう。俺も部屋探すの手伝うし」
「マジで? よし、じゃあこれでラストだな」
紺堂は少年のように喜び、外を見上げた。
パラパラと雨粒が降り出したのは、それからしばらくしてからのことだ。
「来た」
どちらともなく、そう言葉が自然と出る。
カーテンを開けた窓ガラスに雨粒が当たり、いつものように雨は強く降り始める。
瀧本はデジカメの録音ボタンを押し、机の上に置いた。
この後起こる現象を理解しているせいか、体が恐怖で震え出す。いつ聞こえるのか分からないという恐ろしさもある。
急に誰かに脅かされるようなものだから、身構えている間は恐怖感が続くのだ。
その時は唐突に訪れる。
強い雨に紛れて、声はまた聞こえた。
「ミシマキョウコ! 死ねよマジで! あんたなんて消えろ! 死ね死ね! 早く死ねぇぇぇぇ!」
女性の怨念がこもった怒りの言葉。
ナイフで突き刺すような鋭さがあり、鼓膜から伝わるその声に心が潰される気持ちになる。
だが、少しだけ違和感を感じたのは今までと違う点だった。
「……今の声って、小中さんじゃない? パートのおばちゃんの」
紺堂の言葉を聞いて、瞬時に小中さんの顔と声質が浮かんでくる。
そうだ、確かに聞き覚えがある声だ。
「え、ちょ、どういうこと? じゃあさ、今の声、小中さんが出してたってこと?」
「分かんないよそんなの僕にも。でも、確かに似てた気がする」
二人は互いの顔を見て、唾を飲み込んだ。
「確かめてみよう。何か分かるはずだ」
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