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蝉が鳴いている。
この季節、何処にいても聞こえてくる声だが、祖父母の住む田舎は、その声がよりはっきりと聞こえる気がする。
「おばあちゃん、私ちょっと散歩してくる!」
「暗うなる前に、帰ってきんさいよ」
「はーい!」
私は夏休みの宿題を片付けていたが、どうにも集中できなくて、家を出た。
「あー……うるさい」
イライラを蝉のせいにするが、本当の理由は別にあった。
まだ二年とはいえ、このままの成績では志望している高校は厳しいと、塾の先生に言われたのだ。
まわりの友だちがA判定をもらっているのを見ると、焦りで息苦しくなる。
私は頭を振った。
のぼせた頭を冷やすのにアイスを買いたい気分だけれど、見回してもコンビニなんてなさそうだ。
私はぶらぶらと、その辺を歩いた。
日が落ちてきて、そろそろ帰らないと、と思った時だった。
道の外れに、ひとりの女性が立っていた。
私は思わず目を見開いた。
そして、ああ、そうか……と思う。今日は――
差し出すのを迷っているその手を、私は迷わずつかんだ。
その人は戸惑いの表情を浮かべたが、私はすかさず言った。
「冷たくて気持ちいいね」
その顔に、泣きそうな笑みが浮かんだ。
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