つないだその手を

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 部活の話、友だちの話、お父さんの話。そして、ちょっぴりの愚痴。  目まぐるしく変わる私の話を、その人は静かに聞いてくれた。  うなずいたり、たまに微笑んだりしながら。  薄闇の中、ぽつぽつと提灯(ちょうちん)の明かりが灯っている。  初盆の家が、玄関先につるしているのだ。  それらの明かりを道しるべに、私たちは祖父母の家にたどり着いた。  私は、はっとしたように、つながれた手を見る。  ひんやりとした、けれども温かいこの手を、私は離したくなかった。  リィン……と。  軒先(のきさき)につるされた風鈴の音が、風に乗って運ばれてくる。  どんなに願っても、このまま時が止まることはない。 「お母さん、私も一緒に――」  私はその先の言葉を飲み込んだ。  母はやんわりと微笑むと、つないでいた手を、自ら離した。  私が離すまで離したことのなかった手を、初めて……自分から離した。
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