綺羅星の恋人 sidestory.4(仮)

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<2>  ハロルドの本名はハロルド・イフラント・パクストン。  生粋のアメリカ人らしい。  まあ普通に考えりゃ僕が異国人なだけで、この国で出会う人の大半はこの国が母国なのが普通だろう・・・そりゃそうだ。  だから僕のブリティッシュイングリッシュでは時折伝わらず、会話中にたまに首を傾げられたりもした。  にしても・・ハロルドは凄くカッコいい。  どう言ったらいいんだろう。  女子ウケはしないけど、何かやたら男子にウケる奴っているじゃない?  体毛が濃くて筋肉質で高身長で・・がっしりした体つきのさ。  すごく人当たりはいいし、優しいし、明るいし、心が広くて考え方がおおらか。  顔もイケメンなんだけどなぁ・・・女子ウケはキツイと思う。  何かいかにも男臭いって言うのか、う~ん・・僕はすっごく好きだけど。  それにしても。  ハロルドは出会った時からやたらイイ匂いがした。  「イイ匂いって、何?」って、当然君も言いたいだろう。  でも僕もそれが何だか分かんないんだ。  何かとにかく、イイ匂い。  人によって好き嫌いあるだろうけど、少なくとも僕は大好きな匂い。  落ち着くって言うのか、安心するって言うのか・・。  香水とかとも違うし、オメガのフェロモンとも違う。  言い表せないけど・・とにかくイイ匂い。  ちなみに、ハロルドは僕の留学してる大学の生徒じゃなかった。  寧ろ少し離れた某有名大学の医学部に通う超エリートだった。  それなのに彼が僕の大学に顔を出していた理由が、彼の妹。  彼には少し齢の離れた妹が居て、その子が僕の通う大学から少しだけ離れた場所のハイスクールに現在在学しているらしい。 「ただでさえ少し離れてるだろ?この大学横切った方が、何かと近道なんだ」  ハロルドは早くに両親が亡くなったと言っていた。  現在その妹さんとは事情があって別々に暮らして居るらしい。  だからお昼休みは貴重な兄妹の時間らしく、たまに時間を合わせて昼ご飯を二人で食べているんだそうだ。  そして大抵、融通が利くハロルドが妹のハイスクールに通う形で昼食をとっている。  ・・でまあ、前述のハロルドの発言に至る訳。  僕の通う大学を横切った方が近道らしく、度々抜け道代わりに利用してたらしいのだけれど・・。  そこで最近、何時もそこに居て・・芝生にごろんと横たわってる、痩せこけた僕を見つけてやたら心配になったのだそうだ。  彼にすると、  (見る度に痩せて行くけど、昼時なのに何時も食べてる姿を見かけない。拒食症かも)  と思い至り、随分心配してくれていたそうなのだ。  だから僕が、ここに至る経緯をざっくり話した所・・。 「なぁ~んだ、そっかぁ。病気じゃないんなら本当に良かった!」  と、僕を抱きしめて喜んでくれた。  しかし・・・。  その時ちゃんと説明したにもかかわらず、彼の頭の中では僕が「女性」という事になったままだった。  「いや~やっぱ女の人は少しはふっくらしてた方が良いよ! まあふっくらし過ぎはヤバいけどね! 成人病とか心配になっちゃうから」  「・・・ハロルド、それ女の子にそのまま言ったらブチ切れられる奴だから」  そう僕が冷静に突っ込み入れると、ハロルドは真っ青になってキョドり出すんだ。 「そ、そうなのか? ちなみにどこが・・・?」 「あ・の・ねぇ~! そもそも女子に体型の事や「ふっくら」なんてキーワード言ったら絶対ブチ切れられるに決まってるでしょ?まして成人病とか引き合いに出すなんてあり得ないから」  そんな会話をしつつ、僕らはハロルドの妹さんの通うハイスクールにやって来た。  その時僕はハロルドと出会ってもうひと月程になっていた。  最近は僕も何故か一緒に昼食を頂く事になっていたんだよね、何故だかさ。  その妹さん、ケイティはハイスクールの二年生なんだけど。  ケイティはハロルドには全く似てなくて、健康美女って感じのブロンドの綺麗可愛い系のお嬢さん。  スタイルも完璧、明るくてすごくはきはきしてておっとりしたハロルドとは完全に真逆だ。  何時ものカフェでさっきの話をケイティに振ったら、ケイティは血相を変えて 「兄さんまたそんな事言ってたの? 女子は体型の事とか超気にするんだから! だから女の子と付き合ってもすぐ振られちゃうのよ! 全くもう・・そんなんじゃ兄さんの方が、男やもめのまま老後を迎える事になっちゃうわよ?」  もうバシバシ痛い所を突いて来る。 「いや・・・だって、健康には気を付けた方が・・・・」 「そもそも言い方に気を付けなきゃ、どんな忠告も水の泡だよ」 「そうそう、カイル~もっと言ってやって! 兄さん頭は良いんだけど、天然が過ぎて困るのよねぇ・・本当やんなっちゃう」 「ああ・・・それは否定できないかも」 「グウウッ・・」  最近はもっぱら、三人でランチを囲みつつそんな無駄話に花を咲かせるのが唯一の楽しみになりつつあった。  しかし・・・。  ほんのひと月前まで赤貧に喘いでいた僕が、何でお洒落にランチなんか囲んでるのか知りたいよね?  実は、これもハロルドのおかげだったんだ。  ハロルドとケイティが友人知人に片っ端から声掛けして掛け合ってくれて、ブリティッシュイングリッシュの家庭教師の口を数軒見つけてくれたんだ。  英国留学を控えた子なんかには、ロンドンの豆知識なんかも伝授したりして本当に喜ばれた。  何よりその家庭教師はどれもとんでもなく時給が良くて、おまけに食事つき。  そのお陰でどうにか生活に困らなくなった。  今までしてた安い時給のキッツいバイトもそのお陰で幾つか減らせて、本当に助かった~。  でもさ・・・・。 「でも僕、もう後四か月でアメリカとはお別れなんだよね・・・・」  思わずポツリと、そんな独り言が口を突いて出た。 「そうね・・・折角仲良くなれたのに、本当に残念だわ・・」 「ああ・・・」  二人もそう言って、暗い顔で口を閉ざしてしまった。  (しまった・・二人に気を使わせちゃった)  僕は咄嗟に、 「僕がオメガだったら、このままコッチに残ってハロルドのお嫁さんにでもなるんだけどねぇ・・。残念ながら、僕アルファなんだよね~」  そんな事を口走ってしまったんだけど・・。  意外にケイティは真顔で、 「そうなのよねぇ・・。兄さんを可愛くてしっかり者のカイルにお願いできれば私も安心できるんだけど」  僕とハロルドの顔を交互に覗き込みながらそう溜息交じりに呟いた。  ハロルドは気まずかったのか、 「・・・トイレに行って来る」  そう小さく呟く様に言うと、逃げる様にトイレに向かって行ってしまった。  その背を見送ったケイティが、僕に小声で 「・・・ねえ、未だ兄さん貴方が男性だって気付いてないのかしら」  と尋ねて来た。  続けて 「あ~あ、兄さんが女の子連れて来たから「ようやく彼女出来たか・・」ってホッとしたんだけどなぁ・・。カイル、実は男でアルファなんだもん・・・。カイルの所為じゃ無いの分かってても、正直ガッカリしちゃった」  と大きな溜息と共に告白されてしまった。  僕は流石に苦笑いで 「・・ハハッ、未だ僕が男だって気付いてないみたいなんだよねェ・・・その節は本当にゴメンね」  と答えるに留まった。
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