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パーティーの主役
僕は、1人トイレで少し気持ちを整え、会場に向かった。
まだ5分前なのに、会場にはかなりの人が集まっていた。席は30以上はありそうだ。
ピンク髪の彼女は、やはり人の輪の中心にいた。先に行って貰って正解だった。
その様子を見ながら、そっと端の席に座る。
しかし、今日は何のパーティーなんだろう。
ぼーっとなんとなくピンク髪の彼女の集団を見ていると
「日向。なんで待っててくれないんだよ。水臭い奴だよ。」
ピンク髪の彼女と一緒の輪の中にいた智樹がいつの間にか目の前の席に座っていて、軽く僕を睨む。
同じ会社から来るのに、僕は智樹を待たずにここに来た。
「智樹と来ると、人に囲まれるから。」
と、軽く笑うと、
「どこまで人付き合いが苦手なんだよ。」
と言って、智樹も笑った。
「ところで、今日ってなんのパーティーなの?」
と聞くと、
「花音って、あのピンクの髪の毛の子なんだけど、あの子の誕生日パーティー。」
彼女が主役なんだ。
「すごくおしゃれな人ばかりで居心地が悪い。」
ボソッと言うと、智樹は笑って、
「みんな特別おしゃれってわけでもないと思うけど。俺から言わせたら、よっぽど日向の方がおしゃれだと思うけど?」
僕と会場の人たちと見比べながら言った。
「どこがだよ!からかうのはやめてくれよ。」
顔が赤くなるのがわかる。
「そういう所が日向はかわいいよな。重めの前髪と眼鏡に隠されたジャニーズ系を俺は知ってるぞ。」
と言って、僕の眼鏡をずらす。
「しかも、これ、伊達だしね。」
バレてたのか…。
智樹の言う通り、実は、僕はぱっちり二重のジャニーズ系の顔立ちをしている。
でも、注目される事が苦手な僕は、この顔でいい思いをした記憶はほとんどない。
眼鏡を戻し、
「智樹は意地が悪い。」
と睨むと
「だってさぁ。勿体無いじゃん。俺が日向の顔なら、ガンガンナンパとかしちゃうけどなぁ。あ〜、勿体ない。」
そう言って笑う智樹の方が、よっぽどアイドルっぽいと思う。
「おっと。時間だ。さぁ、始めようかな。」
と言って、お店のスタッフの方に歩いて行った。
確かにとても美味しい食事だった。これが1人分無駄になるのは勿体ない話だ。それをタダで食べている僕はラッキーだ。
前の席は智樹が座ってくれたから、僕が気を使って話さなくても、なんとなく場は盛り上がっていて、僕は美味しい食事とワインを楽しめる事ができた。智樹に感謝だ。
みんな、程よく酔いがまわり、席を離れて、好き好きな場所で盛り上がっていた。
僕は、相変わらず席に座り、のんびりワインを楽しんでいた。
智樹がワインを飲んで、ご飯を食べて、好きに帰っていいって言ってたから、そろそろ帰ろうかなと思っていた頃だった。
僕の顔を、くりくりの瞳のピンク髪の顔が覗き込んだ。花音ちゃんだ。
「一緒に抜け出そうよ。」
と言って、ニッコリと笑った。
「抜け出すって、君の誕生日パーティーでしよ?」
ほろ酔い気分だった僕は、いつもより少し肩の力を抜いて話す事ができた。
「だって、花音、疲れちゃったし、飽きちゃったんだよね。」
と、智樹の席に座りながら言った。
「ダメだよ。そんなの。誕生日プレゼントもどうするの?」
花音ちゃんは、肩をすくめて、
「いいの。いいの。みんな、もうただの飲み会になってるし、プレゼントは智樹くんが持ってきてくれるし。だから、ほら、行こ。」
そう言って、席を立ち、僕の腕を取り、口の前で人差し指をたて、そっと歩き出した。
どうして僕に声をかけたのか。つまらなそうにしているように見えたのだろうか。
どちらにしても、僕と彼女は、パーティーを一緒に抜け出した。
まだ、パーティーは終わっていないのに、主役を連れ出す少しの罪悪感と、それ以上に、女の子と抜け出すスリル、ワクワクした気持ちがなんとも楽しい気持ちにさせた。
僕たちは、自然に手を繋ぎ、どちらからともなく、走り出していた。
僕たちを包む空気は甘く、街の明かりははキラキラ煌めいていた。
僕たち2人は、笑いながら、近くの公園の噴水まで走った。
「楽しかったね。日向」
彼女は、そう言って、噴水を背にして僕の方を振り向いた。
噴水はライトアップされていて、キラキラしたライトをバックに笑う彼女は、ピンクの髪が煌めき、とても美しかった。
「日向?どうしたの?」
彼女が僕の顔を覗き込んだ。
「あ、えっと、キレイだなと思って。」
言ってしまった後、あっと口を覆った。
彼女は噴水の方を見て、
「ホントだよね。噴水、すごくキレイ」
そう言う彼女の瞳がキラキラと輝き、僕は心を奪われた。
キレイなのは、噴水じゃなくて、君なんだけどね。
僕は、引き寄せられるように、彼女にキスをした。
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