ピンク髪の彼女

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ピンク髪の彼女

「一緒に抜け出そうよ」 彼女のその一言から、僕たちの関係は始まった。 「日向(ひなた)、今日の夜、空いてない?」 昼食を食べていると、同期の智樹が話しかけて来た。 智樹は高校時代からの友人で、同じ大学に行き、同じ会社に入社した。僕と違い、社交的で気遣い上手な面倒見のいい男だ。 「特に予定はないけど、何で?」 そう聞くと、 「日向、飲み会とかパーティーとか苦手だし、断るのも苦手だから、誘われたくないの知ってるんだけど、今日の夜のパーティーにキャンセルが出ちゃって、お金はいらないから来てくれないかなぁ?」 そう言って、智樹は、顔の前で両手を合わせる。 う〜ん。僕は悩む。お金の問題じゃないんだよな。 即答しない僕を見て、 「だってさぁ、勿体無いでしょ?今更、お店にキャンセルはお願いできないし、料理余っちゃうと思うんだよね。食事が美味しいお店だから、夕飯食べに行くつもりでさ。今日は、人数も多いから、黙々とご飯食べて、酒飲んで、さっと帰っていいから。ねっ。」 そう言って、顔の前で両手を合わせたままウィンクをする。そんな智樹の顔は、男の僕でも、ドキっとしてしまうくらい魅力的だ。女性なら、きっと恋してしまうだろう。 実際、智樹はとてもよくモテる。気遣上手な上に、ビジュアル良しとなれば、モテてないはずがない。 それに引き換え僕は…。 「わかった。行かせて貰うよ。」 僕が少し笑って言うと、 「有難う!助かる!」 そう言って、パァっと明るい笑顔で言う。 どうしたら、そんな笑顔ができるんだろう。 彼からは、いつも太陽の匂いがした。 なぜ、僕が"日向"で、彼が"日向"ではないのか、彼を見ていて何度思ったことか。 彼を見ていると自己嫌悪で凹む時もあるけれど、僕にない物を持つ彼と一緒にいる事は楽しかった。僕の数少ない大切な友人だ。 行くとは言ったものの…。 パーティーか…。苦手だ…。 僕は人付き合いが苦手だ。 知らない人がいる場所も苦手だ。 それがパーティーとなれば尚更だ。 浮かない気持ちで午後からの仕事を終え、その気持ちを引きずったまま、それでも真面目な僕は開始15分前には会場のレストランの前に立っていた。 「何してるの?入らないの?」 背後から女性の声がした。 振り返ると誰もいない。 えっ? 「ばぁっ!」 と言って、ピンク色の真っ直ぐな長い髪の女性が下から飛び出て来た。 「おぉっ」 思わず声が出る。 なんだ。なんだ。なんだこの子は。 なんで突然飛び出てくるんだよ。 「どうしたの?今日、ここ貸切だから、パーティーに来たんでしょ?なんで入らないの?」 と、クリクリとした大きな瞳で、僕の目を覗き込みながら聞く。 一瞬、間が空き、 「えっと。まだ15分前だから。」 と、ぎこちなく答える僕。 確かに、それも事実。 でも、本当は1人で入る勇気がなくて、誰かが来たら、その波に乗って入ろうと、機会を伺っていたという方が大きい。 「えっ?ジャストに入る為に待機中??そんな人、初めて聞いた。」 彼女は目をパチパチしながら言った。 「そんなのいいから、入ろ!」 そう言うと、僕の背中を押しながら、レストランのドアに向かった。 中に入ると、彼女はさっと僕の前に立った。 その瞬間に 「あ、花音ちゃん、いらっしゃい。」 受付の女性から声がかかる。 「こんばんは。えっと…。」 と言って振り返り、 「名前、なんだっけ?」 「橘です。橘日向です。」 慌ててそう言うと、彼女はうなずき、 「花音と橘日向です。」 と、受付の女性に告げた。 あっ! 第一の難関、受付をあっさりクリアした。 ポカンとしていると、 「日向、行こ。」 と、彼女が振り返りにっこり笑った。 いきなり呼び捨て?でも、不思議と嫌な感じはしない。 「えっと。花音ちゃんだっけ」 「花音でいいよ」 いや、初対面で呼び捨ては無理。 聞かなかなった事にして、改めて言う。 「花音ちゃん。受付有難う。」 「いえいえ、どういたしまして。」 にっこり笑う。 バクバクバクバク。 急に強い胸の鼓動を感じた。 ピンクの髪に気を取られていたけど、よく見てみると、小さな顔に、クリクリの瞳、すっと通った鼻筋、厚めのポッテリした唇、本当に可愛い子だった。 急に緊張しながら、 「僕、トイレに行ってから行くから」 と言う。 受付の感じから、彼女は、このパーティーのメンバーと親しそうだ。そんな彼女と一緒に入って行ったら、人に囲まれることは安易に想像できた。それは危険だ。 「そう?じゃぁ、この通路の奥だからね。また後で。」 と言って、バイバイと手を振り、中に入って行った。 ふうっ。 やっと一息つけた。 受付は簡単にクリアしたものの、ドッと疲れた。 まだまだパーティーは始まってもいない。
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