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「君も汽車に乗るの?」
雪のような純白のワンピースを着た少女は、小高い丘の上にぽつんと佇んでいた少年に声をかけた。
少年はボロボロの黒い服を着て、今にも穴が空きそうな布の靴を履いている。
「うん」
少年は光のない瞳で少女のほうを見ると、口角を上げてほんのり微笑んだ。
少女は、そう、と鈴のような返事をして、ワンピースをひらひらと靡かせながらスキップし、少年の隣に並ぶ。
周りに町や村はなく、丘を囲む新緑の森の向こうには見渡す限り黄金色の平原が広がっていて、丘の上では1本の高い木がそよ風で木の葉を遊ばせている。
太陽は北の空の向こうに隠れ始め、目の前に広がる南の空からは瑠璃色の波が迫ってくる。
少女は薄水色の瞳を瞬かせ、俯いた少年の顔を覗き込んだ。
少年はまっすぐに地面を見つめたまま、動かない。
不思議に思った少女も地面を見たけれど、アリの行列があるわけでも、変な草が生えているわけでもなかった。
「君が待っている汽車はどっち?」
沈黙に耐えられなくなった少女が問いかけると、少年は優しい声で言った。
「地獄行だよ」
「ふうん」
少女の柔らかそうな手には、天国行の切符が握られている。
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