地獄から天国へ

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 夏になって終戦記念日になると、今の日本があるのはお国の為に戦い殉国した先人たちのお陰というようなことを必ず言う者が現れる。右翼の人間に違いなく、こう訊いて鵜呑みにして英霊に感謝せねばと思ったりする者が少なくないが、戦後から今迄、戦争がなかったのはGHQが押し付けた、アメリカにとって都合がいい平和憲法のお陰であり、世界最大の軍事力を誇り世界のリーダーとして、または警察(ちょっと頼りなくなってきたが)として君臨して来たアメリカの属国に成り下がったお陰であって戦争中、破壊掠奪殺戮以外で言えば、化石燃料を燃やしまくって地球温暖化を大いに促進し、今日に見る異常気象、自然災害を生むのに一役買っただけと言っても良い位なのだ。第一お国の為に戦い殉国したと言うが、実際は死にたくないから戦争に行きたくないけど、命令は絶対で拒否できないから行くしかしょうがないというのが本音で、お国の為に喜んで死んでまいりますとかお国の為なら死をも厭いませんとか言うのは建前に過ぎなかったのだ。特攻隊にしてもそうで、お国の為どころか国を滅ぼす為に戦っていたのだ。それと言うのがあの頃、戦局は悪化するばかりと言って良く降伏しなければ戦死者を増やすだけで敗北は決まり切っていたのに本土決戦に備え、上層部が一億総特攻をスローガンに掲げ、それに下層部を始め国民は唯々諾々と盲従し、つまり自滅しようとしていたのだ。もし原爆を落とされなかったら降伏できずに本当にそうなっていただろう。  だから今の日本があるのはお国の為に戦い殉国した先人たちのお陰と言うのは馬鹿も休み休みに言えということであって高度経済成長期やバブル期に日本が浮かれに浮かれていた時も化石燃料を燃やしまくって地球温暖化を大いに促進していたのに今の日本があるのは働き者だった先人たちのお陰と言うのと同じようなものだ。  事実、先人たちは現代日本に猛暑を齎した。だからこの時期、エアコンが欠かせなくなるが、エアコンは年間消費電力量が最も多い電気製品だから今迄通りエアコンを皆が挙って使うと、火力発電所が大量の化石燃料を燃やして大量の二酸化炭素を排出することになる。従って熱中症予防にエアコンを使いましょうと口やかましく勧めることは自らボディブローを食らわすか真綿で首を絞めるようなもので地球温暖化を年々じりじりと進めることになり、将来的に熱中症患者を増殖させるのだ。それなのにラジオのパーソナリティなんかが熱中症予防にエアコンを使いましょうと公共の電波を使って吹聴している訳だから地球温暖化に拍車をかけていると言えなくもないのだ。だからパーソナリティのみならずパーソナリティに言わせているラジオ番組のディレクターや出演者やスタッフ一同皆アホだ偽善者だと言っても良い訳だ。牛の畜産に於ける牛のおならもげっぷも二酸化炭素より強力な温室効果を発揮するメタンガスだから牛肉を求めて焼肉屋でカルビやハラミを喜んでパクパク食ってる奴らも乳製品を求めてサーティーワンでアイスクリームを喜んでぺろぺろ甞めてる奴らも地球温暖化を促進している罪悪に気づいていないのだ。  以上のように普段から思い憤慨している男が真夏の昼下がり、そう言えば俺も若い頃、知らぬが仏で車好きなもんだから矢鱈に愛車を走らせて二酸化炭素を撒き散らしていたなあと遠い記憶をぼんやり紐解きながらヒートアイランド現象も相俟って猛暑に耐え切れず意識朦朧となり、何もかも陽炎のように見えて来て俺としたことが何でこんな所まで来たんだろうと朧気に悔いながら遂に太陽の照り返しが強いアスファルトの上にうつ伏せに倒れてしまった。そこへ人が助けに来たかと思いきや男の財布をズボンの後ろポケットから抜き取って逃げ去ってしまった。残された男はアスファルトの熱でじりじりと焦げるかのように間もなく死亡した。そこへ生死を確かめるべく別の者がやって来て心臓に耳を当てようと男を仰向けにすると、その途端、身の毛がよだちぞっとした。 「うぎゃー!バケモノだ!」  その者は悲鳴を上げるなり逃げて行ってしまった。男の顔が年相応に皺くちゃな上に無残にも熱で焼け爛れていたのだ。そこへ一部始終を見ていた、人間の目には見えない天使が舞い降りて来た。 「さあ、お迎えに参りました。」 「あなたは?」と男の魂が問うと、天使は名乗った後、こう言った。 「この下界では地球温暖化が進むことに因って異常気象に伴う自然災害が頻発し、大地震による大災害も起こり、コロナウィルスも感染力を強めています。この儘行くと、感染者が急増し、ライフラインが崩壊し、人々が職を失い、路頭に迷い、また職があっても金があっても生活がままならなくなり、治安が頗る悪くなり、地球温暖化と相俟って此の世は地獄と化してしまうことでしょう。こんな所にいてはいけませんから天国に参りましょう。」 「はい。」  斯くして男の魂は天使と共に空中へ舞い上がり、天国に案内され、自分勝手な目的が利欲が進歩が齎した文明の弊害にコロナウィルスと共に喘ぎ苦しむ人類を後にしたのだった。 
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