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≫≫追憶≫≫
【追憶:ヘイム】
▼紺青の空
雲一つない青空
ここは長閑な街の中央から離れたところにある
青い屋根に白い壁が美しい屋敷であった
庭にある大きな木の下で木漏れ日を浴びながら
小さな男の子が木の根元に背をもたれかけ白いウサギのぬいぐるみを抱え、読んでいたであろう絵本を読みかけのまま寝ていた
そんな男の子に柔らかい布を肩までかけてあげた男がいた
その男は日に照らされた青い髪がとても美しく
透けている色がまるで真夏の大海のようであった
そして青い髪の男は口元に笑みを浮かべ
少し離れたところで剣を抜く
その剣はこの屋敷の当主から代々引き継がれたものであった
鮮やかに光を反射し銀の刃に青い煌めきが映る
軍刀だった
正門から庭を通る通路を慌ただしく駆ける音がする
いつも慌ただしく
元気がありあまる様子が目に浮かび
またもや笑みを浮かべる
父親と似てしまったんだろうか
木陰で寝ている方は母親似だなと考える
カサッ
茂みが揺れる
「おりゃ!!」
「…お馬鹿め」
茂みから飛び出して来た
明るい色の青い髪が揺れる
こちらは柔らかそうな髪で彼が動くたびに忙しく動くので
周りから青犬などと揶揄われていると愚痴をこぼしていた
「…くっそぉ…」
「残念だったな」
軽く脳天に一撃を食らった小さな少年は頭を押さえ悔しがるも
男の差し伸べられた手を掴み
満面の笑顔を向けた
「おかえりヘイム」
「ただいまです!兄様!!」
剣を鞘に収めた兄に抱きつくヘイムと呼ばれた少年
「こらこら、ギリスが起きてしまうだろ」
「あ!……シー…」
その口元に人差し指を当てシーという声も大きく
一番下の弟が目を摩り起きてしまう
「……お兄様、お兄ちゃん…」
よたよたとぬいぐるみを抱えて一番上の兄の足に抱きつく
「全くお前たちは。仕方ないな」
「へへっ!兄様俺と稽古してください!」
「……僕も」
幼い弟たちが上下に抱きつき
困り果てる
「さぁ風が冷える。家に戻ろう」
三人は幸せそうに笑みを浮かべ
明暗がはっきりと分たれた屋敷の中へ
消えていった
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「……ハッ」
身を起こす
額から流れる汗を手で拭う
……久しぶりに見たな
裸の上半身にも僅かに汗をかいていたようだ
古い大きな傷が背中にあった
昔にもう戻ることはない
何も知らない幸せを過ごしていた時の夢だ
拳を握りしめる
「……お兄ちゃん…」
声に反応し顔を向ける
そこにはむにゃむにゃと枕を抱きしめながら寝る最愛の家族がいた
それを見て張っていた気が抜ける
優しく頬を撫で
窓から差し込む月明かりの部屋でヘイムは
ベッドの下から布で包まれたものを取り出す
無言で見つめた後
ゆっくりと布を取り除く
音もなく布が床に落ちる
中には真っ青な艶のある鞘に収められた
軍刀が出てきた
それを握る
……
やはり抜けない
これは精神的なものだ
いつまで経っても俺は抜け出せない
あの日俺たちの人生は変えられた
俺は住む家も頼る先もなくなり
体に傷を負ったまま心を病んでしまった弟と二人
生きるために必死だった
申し訳ないと思いつつ食べ物を盗んだこともあった
弟には言えない悪いこともした
それでも、この刀だけは売ることができなかった
もはや霞んでしまいそうな
記憶の中で
銀の刃を空に向け青い煌めきを放つのを
俺はこの世で一番美しいと思っていた
……
床に落ちた布で巻き直す
それをまた元の場所に戻す
ここに来て俺たちはいい方に変われた
でもまだだ
まだ何も終わっていない
「……必ず、見つけだしてやる」
窓に映った青い髪の下で光る黄色い目が
俺を睨んでいた
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「ヘイム!遊ぼーぜ!」
「おう!あっ、悪い!今日は家に帰らなきゃ」
「ちぇ!つまんねーな!また明日な!」
「おう!」
手を振って別れる
同じ年頃の友人たちだ
俺はヘイム
この地域をおさめる辺境伯の息子だ
ここでは身分の差なんて関係なく仲良くで
家族みたいに接している
仲が良すぎて兄様には節度を持ちなさい
なんて小言を言われるが俺は知っている
お母様がよくあの子はあなたにそっくりね
お転婆で頑固で親の私たちでも自分が正しいと思ったら
テコでも動かない子だったのよ
それって俺と似ているのと尋ねると
あなたは明るくて人に好かれる子だけど
芯の方では常に物事をまっすぐ受け止める強い子
そんな二人の不器用なところがそっくりなのよ
と膝に弟のギリスを乗せたまま朗らかに笑うお母様
お父様は苦笑していて
その時珍しく家にいた兄様は居心地が悪そうな顔をして面白かった
近道の空き家の庭を通り途中野犬に追われたけど
撒いて逃げて
汗をしっかりかいた時に屋敷についた
「ただいまもどりました!」
バンと扉を開ける
すると慌ただしく屋敷のものたちが駆け寄ってきた
「ヘイム様。お帰りになる際はお迎えに向かった者をお待ちくださいと仰いましたのに」
「うん!ごめんな爺や」
全くごめんと感じられない笑みを浮かべ
老執事のハンカチで汗を拭われる
「次からお気をつけくださいませ。何かあってからでは私どもが叱られてしまいます」
「なぁ兄様たちは?」
「はぁ……ギリス様といつものとこでお休みになってございます」
「わかった!」
肩にかけていた鞄を爺やに預けた途端走り出すヘイム
後ろから何か言われが既に聞こえていない
目的の場所まで走る
階段を駆け上り
曲がり角でメイドとぶつかりそうになりよろけながら謝って
走る 走る 走る
この屋敷では見慣れた光景であった
冷静沈着の長男
元気発剌の次男
大人しく可愛らしい三男
これがこの屋敷での認識だった
よく屋敷の庭が見える部屋の前までやってきた
そのまま勢いを止められず扉にぶつかり部屋に飛び込む
するとボフッと何かに包まれる
衝撃に身構えていた力を抜き
見上げるとそこには自分より深い黄色の瞳が自分を
映しており
呆れたような笑みを浮かべた大好きな人物がいた
「兄様!!」
「…ヘイム、その前に言うことがあるんじゃないのか?」
「あっ、えっと走ってぶつかってごめんなさい」
「次からはちゃんと気をつけなさい。元気なのはいいがもしぶつかって怪我をしたらどうする?」
「俺は頑丈だから大丈夫だってみんな言ってます!」
「そうかもしれないな。ならもしギリスやお母様にぶつかっても自分が平気だからと言えるのか?」
問いかけた瞳は真っ直ぐで心をのぞくようだった
俺は一生この人に嘘はつけないと感じた
つく気はさらさらないけども
「……ごめんなさい。俺が浅はかでした」
「いい。己を省みられるものなら成長できる」
大きな男の手で頭を撫でられる
正直お父様に撫でられるより好きだった
「流石俺の弟だ」
凛々しく騎士よりも騎士らしいかっこいい兄にそう言われて全身から嬉しさが滲む
「うん!」
「……お兄ちゃん、おかえりなさい」
「おう!ただいまギリス!兄ちゃんが帰ってきたぞ!」
窓際で椅子に座っている可愛い弟に近づきフワッとした髪を撫でる
淡い水色が綺麗だ
「…お兄ちゃん、痛いよぉ」
「あっ、ごめん!」
「ほら二人とも。もうすぐ二人が帰ってくる。みんなで食事をするからヘイムは着替えてきなさい」
「うん!」
「そこははい、だろ?」
「はい!」
俺は自室に走って行った
後ろからは呆れたように息を吐く兄と
乱れた髪を小さな手で髪を梳かしていた
久しぶりに家族が揃って食事をし
兄の通っている騎士学校の話から始めて魔物との戦いの話や任務で同行した学者の難しい話などをして楽しい時間を過ごした
「「…」」
二人が鉢合わせし目的は一緒のようだ
扉をノックする
「入りなさい」
「…兄様」
「…」
ギリスは俺の後ろに隠れ抱きつく
俺は申し訳なさそうな顔をしているが
期待で溢れていた
「夜更けだぞお前たち」
「ごめんなさい」
「…なさい」
つけていたメガネを外し本を閉じる兄クトルは仕方なそうな笑みを浮かべる
真面目で厳しいと見受けられる男だが
幼い兄弟たちには甘いようだった
クトルはまだ文書作成の作業が残っていたが
家族の時間を優先した
部屋の主が留守でも埃ひとつもなく
清潔を保たれていた
その絹のシーツに包まれたベッドに二人を呼ぶ
片方はやったと笑みを浮かべベッドに飛び込み
もう一人はおずおずとしながらも頬を嬉しそうに染めていた
兄のクトルもランプの灯りを弱め
中央で横になる
両側には愛しい弟たちがいる
優しく頭を撫でる
二人とも嬉しそうに笑みを浮かべた
「ねぇ兄様もっと冒険の話をしてよ」
「俺は冒険をしている訳ではないんだがな…そうだな、じゃあ最高顧問殿の話を…」
「兄様その話ばっかり!あの野獣みたいな人の話は?兄様とどっちが強い?あとすごい騎士がいるって聞いたよ!」
「そうだったか?…あいつの話はもういいだろ家でぐらい離れておきたいんだ。俺の方が強い決まっている」
「そうだよね!」
「…兄様すごい」
弟二人が楽しそうに笑う
「じゃああのぼう…なんだっけ?」
「亡国の騎士だろ?あれは、どうだろうな」
遠い目をする兄を見て弟二人は不思議がる
「じゃあじゃあ火山に住んでいた火竜の話!」
「ギリスは何がして欲しいんだ」
隣でもそもそとくっついていた下の弟にも話しかける
「……あの、キラキラがまた見たいです」
クレスは一瞬驚く
「なにそれ?」
キョトンとした顔で尋ねるヘイム
「……特別だぞ」
クレスはそっと手のひらを上に向ける
青白い光が手を覆い
光が集まって透明で光を反射する結晶を作り出した
「すごい!」
手を伸ばして触れようとするヘイム
「こら」
触れる前にパキンとヒビが入り弾け
光の粒子となって広がった
それすら美しく二人は魅入られる
「…何今の…お、俺にもできる?」
驚きを隠しもせず兄の胸にくっつき尋ねる
「……僕もできる?」
ギリスも同じように興味があるようだ
…
「…もちろんだ。お前たちでもきっとできる」
嘘はついていない
この力のせいで俺は…
「……兄様?」
「なんでもない」
二人の頭を一撫でしてもう夜も遅い寝ようと言って三人で寝た
ヘイムは足を伸ばして蹴り
小さなギリスは抱き枕のようにくっつく
二人のせいで寝苦しいが
この温もりが幸せだと感じ
クレスも夜に微睡んでいった
≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
「ハッ!」
「クッ!?」
拍手が鳴り響く
「なかなか良かったぜ」
「……お前もなヘイム」
倒れた男の手を掴み立ち上がらせる
剣の訓練をしていて試合をしていた
もちろん木剣で、何も考えず真剣を持ち出した時は
血相を変えた爺やがクレス兄様を呼んできて
血気盛んだった俺は愚かしくも勝負を挑みボコボコにされた
別に本気じゃなかったから木剣でも構わないが
いつまでも強く気高い兄は尊敬している
それでも男として悔しかった
日々研鑽し苦手な勉強も兄の書斎に残してある学術書を読んで勉強した
さっぱりわからなかった
弟は気弱で大人しいが優しく気が聞く奴なのだが
俺たち兄二人を気にしているようだったので
クレス兄様と俺で同じじゃなくていい
それぞれが違って支え合えればいいと素晴らしい事を言っていた兄様に俺も頷いた
昔俺よりもデカいやつに喧嘩を売られ怪我をした時も
クレス兄様は厳しく俺を叱ったが後日俺を鍛え上げてくれて一週間後リベンジして見事勝てた
その際、次喧嘩や復讐するならば俺が相手になると言ってくれて俺は嬉しかった
次は俺の晩だと思い何があってもたった一人の弟を守ると誓う
そんな平和で俺にとって幸せな日々が突然終わりを告げた
俺が簡単な仕事も任され
この日は街外れにある廃墟に盗賊が出るときき
街の自警団と共に向かった
確かに五人組の盗賊がいてそこを拠点にしていたらしく
なんとか全員捕まえることができ汗を流して屋敷に帰った
すると信じられない光景が広がっていた
「……」
下げていた袋が地面に落ちる
「………!」
走り出す
見えたのは美しい屋敷ではなく
炎と氷で覆われた
屋敷であったものだった
燃えている扉を蹴り破る
「ッ!爺や!」
そこには斜めに斬られた老執事がいた
まだ浅く呼吸をしていた
「何があったんだ!?今助けるからな!」
背中を支え背負うとしたが
腕を掴まれ止められる
「……ヘイム様」
「喋るな!今助けるから」
「よいのです。それより、奥に、…ギリス様が」
奥を指差す
そうだ助けに行かないと!?
振り向いた顔を向けると、既に爺やは息絶えていた
…
気持ちを噛み殺し優しく地面に置いて
走り出す
「ギリス!!父様!母様!」
叫びながら走るが返事はなく屋敷が燃えていく音と
熱により砕け落ちる氷の音が響く
一体何が、と考えたがそれどころじゃない!
「凍えろ! 命奪う氷となれ!」
激しく燃えて崩れそうな柱と扉の炎ごと凍らす
「ハァ…ハァ」
魔力消費が激しい
ブレスレットの魔道具が青く光る
あと数回はいけるか…
高品質な品物だが劣化には耐えられないようだ
命じるだけで凍らせられる兄を思い浮かべる
だがその兄はここにはいない
俺が、守らないと!
所々に黒焦げの死体や
眠るように凍っている死体があり
俺は初めて見た他人の死に慄く
だけど……!
扉を蹴破る
「ギリス!!」
俺は叫んだ
辛いことがあると隠れるクローゼットの扉を開ける
すると寝ているように俯くギリスがいた
頬には煤がついている
「よかった!よかった!…」
今更体が震える
小さな弟を抱きしめ抱き抱える
「まだだ。二人を探さないと…」
残りは父様の執務室
そこまで走る
日々鍛えているのに体は思うように動かず
肺は水の中のように苦しかった
ドカンッ!!
扉を蹴破る
よく幼い頃は走ったままぶつかり叱られたものだった
「父様母様!」
部屋の煙が流れ込む
それを振り払い目で探る
「……ッ!?」
そこにら串刺しになった父様と覆い被るように重なる母様が氷漬けになっていた
こんな状況なのに火の熱も変化を与えられず
美しく冷気を放ち、輝いていた
「これ、は…」
驚愕しながらも歩みを進める
部屋の惨状は凄まじく
壁は抉れ絵画は爪で裂かれたようになっていて
本棚は崩れ燃えていて、
両親のところだけが美しく凍りついていた
「…ッ」
部屋の壁に磔のように凍っている二人の前に
蹲っている姿が見えた
その後ろ姿は見慣れていた
敬愛している兄の後ろ姿だった
「……クレス、兄様。一体何があったんです?」
何とかそう話せた
ヘイムの言葉にビクッと肩が震えた
「…」
「クレス兄様…」
「…」
「なぜ黙っているんですか?兄様!」
「…ッ」
「何か喋ってくれよ兄ちゃん!!」
「…うるさい!!」
激しい怒声と共に凄まじい冷気が溢れる
一瞬で部屋に広がろうとしていた火が消え
それどころか足元が凍りつく
振り返り顔を手のひらで覆ったクレスは
黄色い瞳を輝かせて涙を流して睨んできた
「なっ、なんだよ。何があったんだよ」
「…出ていけ」
「父様と母様はどうしてそうなっているんだ!説明しろよ!!」
「…お前には関係ない」
その言葉に衝撃を受け傷つき
そして怒りが溢れる
「関係ないわけないだろ!!」
兄に近寄り肩を掴む
普段逞しくいつまで経っても追い越せない兄の肩なのに
この時は信じられなく小さく感じられた
「ッ触るな!」
振り払われる
「…ウッ」
「なっ!?」
盾にした片腕と抱き抱えていたギリスの肩が少し凍る
「何しやがる!」
「………俺は………そんな……ありえない、ヘイム、ギリス…」
悲壮感を滲ませた顔で俺たちに手を伸ばしたが
ピタリと止まった
「ダメだ…もう、壊れてしまった…」
「何言ってんだよ!俺を見て喋ってくれよ!」
必死の声も届かない
「ウッ……ぐぁ」
苦しみだし己の身を掻き抱くように悶え
心配したヘイムが触れようとした
「………消えてくれ」
指の間から見えた瞳は獣のように光っていた
「グァアアア!!」
「やめてくれ!」
暴れ出したクレス
庇うように背を向ける
「うわぁッ!?」
ザシュッ
背中に鋭い痛みが走り熱が広がり瞬時に感覚がなくなる
「あっ………………な、なぜ、ウォオオオオオ!!」
獣のような叫びの後冷気が屋敷を一瞬で包み込み
冷気が屋敷の外まで凍り付かせる
薄れゆく意識の中
俺は壊れた窓から黄金色の月を最後に見て
意識を失った
その後目覚めた時には病院に運ばれ
俺たちは兄弟以外はあの屋敷では助からなかったらしい
その後両親もいない俺たちは
なんとか辺境伯の跡取りとして頑張っていたが
零落し
別のものに譲るしかなく
泣く泣くその場を去った
兄弟二人の旅となり
あの日の真相と行方不明の兄を探すために
日々を生きていた
あの後俺は一人焼けた屋敷に戻り
そこにはまるで時を止めたような氷が残っていて
両親を覆っていた
あの大火の中でも無事だった軍刀を見つけ氷を切る
そして二人を庭の中に埋める
「…………」
何もできず何もわからなかった
俺はこの日以来泣かなかった
俺には守るものがある
どこかにいるもう一人の兄弟を想わない日はない
簡単に作った墓の前で誓い
俺は寝ているギリスの元へ戻る
あれからギリスはより大人しくなり
次第に喋らなくなった
どんなに笑わせようとしても曖昧に笑うばかりで
俺にまで気を遣い始め互いに疲れ果てていった
所持金も底をつき
貧相な通りを通って仕事を探していると声をかけられた
聞くと裏で汚い事をして民を苦しませている貴族がいると
そいつを捕まえて改心させると
それなら金も貰えて善行ができると馬鹿な俺は信じて
のこのこあの屋敷に向かい
出会えたんだ
長いようで短いが
かけがえの無い時間を過ごせる幸せを噛み締める
俺はギリスのベッドに横になる
今はもう二人で寝るには狭い
苦笑しながらも可愛い寝顔を浮かべる大人を見つめる
あの時のあの人も、こんな気持ちだったんだろうか
その疑問は夜闇に儚く消えた
美しい慈愛を宿す瞳は
静かに閉じられた
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