おむかえ

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 明日の明日のそのまた明日。剛にお迎えが来た次の日に、僕は熱を出した。それもちょうどみんなでおでかけの日に。  「僕、一人でお留守番できるから、おでかけしてきてね」  「ありがとう、すぐ戻るからね。あと、お留守番のご褒美に、苺をあげるわね」  「わぁっ、ほんと」  苺は僕の大好物であることは、夏月ママもみんな知ってる。僕が喜んでいると、夏月ママは嬉しそうに笑ってそっと言った。  「みんなには内緒ね」  おでかけ、といっても、おうちの近くの丘を登ってお昼ごはんを食べて帰るだけのちょっと長いお散歩だ。その間部屋でおとなしく寝ることくらい、僕にできる。  それより心配だったのは、おじさんの事だ。おじさんは『またね』と僕が言ったら必ず次の日も同じ場所にいてくれるのだ。昨日、僕は『またね』と言った。だからおじさんはあの場所に座って待ってる。  「ごめんね、おじ……」  「こっち来い」  「えっ」  おじさんが怒鳴る声がして、僕が起き上がるとすごい勢いで身体がひっぱられた。そして身体が止まると、そこはおじさんと会ういつもの場所だった。おじさんは僕のすぐ隣に立っていた。  「おじさん?」  「あぁ」  少しして、ドォン。と大きな音がした。音のした方を見ると、たくさんの大きな銀色の棒に『みんなのおうち』が壊されていた。  あのまま部屋で寝ていたら、僕は死んでしまっていただろう。  「……じゃあな、ガキ。幸せになれよ」  そう言って、おじさんは門を飛び越えた。おじさんの身体は少し透けていた。  「おじさんありがと、またね」  おじさんは笑って僕を見て応えた。  「お前に用事は無くなった。お前とはお別れだ。だから『またね』は無しだ、じゃあな」  おじさんの身体はもっと透けて、黒いマントがうっすら見える程度になってしまった。僕はあわてて言った。  「嫌だよおじさん。おむかえは?」  「俺はそんないい奴じゃねぇよ」  「えっ……」  「俺は死神てやつだ。知らねぇなら誰かに教えてもらいなぁ」  「これ、お礼。ありがとう」  僕は門の隙間から側に咲いていた青色の亜麻という花を摘んでおじさんに渡した。おじさんはそれを受け取ると笑って言った。  「ありがと……じゃあな」  「うん、じゃあね」  するとおじさんは消えた。僕が渡したお花も一緒に消えていた。  『みんなのおうち』が直るまで、別のおうちにみんなで入った。  そこの三階の北端の部屋で、熱を治すお薬を飲んだ後、絵本で死神について知った。死神とは、もうすぐ死ぬ人の元に現れて、天国まで連れてってくれるものだと書いてあって、死神の絵はとても怖い顔をしていた。  「おじさんはもう少し優しい顔をしてたのになぁ」  僕はそっと呟いて、小さな窓から空を見た。すると、突然強い風が吹いて何かが窓から中に入って僕の目の前の机の上にふわりと乗った。  何かはかすみそうという花だった。  おじさんが近くにいると思った僕は、お花にそっと話した。  「僕にもね、おむかえが来たんだ。優しい人だって。どんな人かな、おじさんみたいな人がいいな……」  「良くねぇよ」  とおじさんの声がどこからか聞こえた。回りを見ても、おじさんはどこにも見えなかった。でも僕は、おじさんとお話できたのが嬉しくて笑った。そして僕はお花を胸のポケットに大事にしまって、笑ったままそっと眠った。
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