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「きっといつか、新しいママやパパがお迎えに来てくれるわ。その時、新しいママやパパを困らせないように、いいこで待ってましょうね」
お昼寝の前に、夏月ママが笑ってそう言った。これも、誰かにお迎えが来た時に、一人のママが言うお約束の台詞だ。
いつになったら来るのだろう。小学校に入ってからなのかな、もっと後かな。それとも明日かな。と、僕はお昼寝のベッドの布団の中で、頭の中で独り言を言いながらそっと目を閉じた。
春になって、お外で遊ぶ時間が増えた。この『みんなのおうち』の隣の建物が工事をしてるからたまにうるさい音がするけど、数人で遊ぶにはそんなに気にはならなかった。
「あっ、ごめん冬真」
剛が、僕に投げたボールが、風に乗って遠くに飛んで行った。
「いいよぉ」
僕はボールを追って『みんなのおうち』の門の辺りまで走った。すると、門の上に座っている黒いマントを着た男の人が僕を見ていた。
「おじさん、だぁれ?」
僕は両手でボールを持ちながら頑張って聞いた。男の人は門の外をぐるりと見た。そして、男の人以外に誰もいないことが分かると、男の人はびっくりした顔をして、また僕を見た。
「おじさん、だぁれ?」
僕はもう一回聞いた。するとおじさんは門から降りて僕の目の前でしゃがむと、僕の顔に近付いて言った。
「これは夢だぁ。忘れろ、ガキ」
パチン。と男の人は指を鳴らした。すると僕はとても眠くなってそこに寝転んだ。それを見ていた男の人は、音を立てずにひょいと門を飛び越えて、どこかに行ってしまった。
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