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気が付いたら僕はベッドで寝ていた。
「急に寝ちゃう子はたまにいるのよ。だから大丈夫。大きな病気じゃないから心配しないで」
春子ママは、僕と剛にそう言った。
あれは夢だったんだ。と思ったら、夜ご飯の時にはもう、お昼に何を見たのか忘れてしまっていた。
次の日、黒いマントの男の人はまた門の上に座っていた。今度は大きな桜の木の近くで、遠くからは見えにくかった。
「ねぇ、春子ママ。あの人だぁれ?」
「えっ、あの人? どこにいるの?」
「あそこだよ。あの桜の木の側の……」
「……すずめさんかな?」
「違うよ」
「えっ」
僕はたまらず春子ママの腕を引っ張って、門の近くまで歩いた。すると男の人は驚いて僕に背中を向けた。
「逃げないでよおじさん」
僕が怒鳴ると、男の人はこちらに向き直って、座って僕を見た。
僕は男の人の足元まで来て、春子ママに聞こうとすると、春子ママが聞いてきた。
「ねぇ冬真君。おじさんってどこにいるのかな?」
「ここだよ、ほら」
僕は男の人を見て指差した。すると春子ママは男の人の辺りを見て不思議そうにしていた。
「えっ……どこかしら?」
春子ママは男の人の足元をすり抜けて、桜の木の回りをぐるっと回った。男の人はそっぽを向いていた。
「うーん、ママには見えないわねぇ」
「そんな……」
「冬真君だけに見えるってことは、きっと素敵な人なんでしょうね。あいさつしておかなきゃね。はじめまして。冬真君と仲よくしてあげてください」
春子ママは桜の木に向かってそう言うとお辞儀をした。男の人は小さく、バァカ。と言った。
「おじさん。そんなこと言っちゃだめだよ」
僕がそう言うと、男の人は僕を見てべーってした。春子ママは不思議そうに聞いた。
「おじさん、何か言ってたの?」
「意地悪なこと言ってた……」
「そう……いたずらやいじわるが好きなのかしらねぇ。だったらあんまりいい人じゃないわね。いい人だったら仲よくしてあげてくださいね」
春子ママは桜の木に向かってそう言った。男の人はそっぽを向いた。
「……ありがとう、春子ママ」
「もうすぐごはんだから、あまり遠くに行かないでね」
「はい」
春子ママはそう言って笑うと、おうちに戻った。
僕は恐る恐る男の人を見た。
「……わかったろ? 俺は人間じゃねぇのよ」
「じゃあ、だぁれ?」
「……お前をお迎えに来たおじさんだよ」
「おむかえっ!」
僕は嬉しくなって大きな声で言った。すると男の人は耳の辺りを押さえて適当に頷いた。
「ねぇ、いつおむかえに来るの? 明日? 明日の明日? ねぇ、おじさんってば」
おじさんは何故か困ったような顔をした。そして門の上から飛び降りて僕の目の前に立つと、僕の顔に顔を近付けて、低い声で言った。
「はしゃぐなよガキ。俺はお前の新しいママでも新しいパパでもねぇんだよ」
「そうなの?」
「わかったら騒ぐな。ほら、あっち行け」
おじさんは、しっしっ。とここから離れるよう僕に言った。
僕は少しおうちに向かって歩いて、おじさんの方を振り向いて聞いた。
「また会える?」
「……暫くは、ここにいてやるよ」
「そうなんだ、よかった」
僕はそう言って笑った。おじさんは両目を大きくしてびっくりしていたけど、僕はおうちに戻った。
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