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次の日。おじさんは、門の上の桜の木の近くに座っていた。僕は嬉しくなって、裏庭で摘んだ紫色のアネモネという花を持っておじさんの元に駆け寄った。
「おじさん。あげる」
「何だよ」
おじさんは門の上から僕の差し出したお花を見ると、そっぽをむいて応えた。
「……いらねぇ」
「えっ」
「ママにでもあげろぉ」
「……前にお花を摘んで、春子ママにあげた時ね、春子ママが言ってたんだ。
『ありがとう、とっても嬉しいわ』
だから僕、聞いたんだ。
『いつか、新しいママやパパがおむかえに来たら、こうやってお花をあげようかな。そしたら嬉しいかな?』
『ええ。とても喜んでくれると思うわ』
だからね、僕におむかえにきたら、来てくれた人にお花をあげようと思うんだ。だから……」
僕は精一杯背伸びをしておじさんにお花を差し出した。おじさんは困ったように頭を掻いて僕に言った。
「それは新しいママやパパにあげろぉ。俺はそれじゃねぇ、だからいらねぇ」
「でも……おむかえでしょ?」
おじさんはため息をつくと、静かに応えた。
「……いつかお迎えに来た時に貰ってやるよ。だから今はもらわねぇ」
「そっか。わかった」
すると、ベルの音がおうちからこちらに響いた。
「ほれ、鳴ってるぞ」
「ほんとだ。じゃあまたね、おじさん」
「あぁ……あ?」
おじさんは頭をかかえた。僕はそんなおじさんがどこか可笑しくて笑っておうちに入った。
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