3人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日は莉音ちゃんがみんなとお別れです」
大きな茶色い鞄を両手で持った春子ママがみんなの前でそう言った。
「みんな、今までありがとう。寂しいけど、新しいママとパパと一緒に仲良く暮らします」
莉音は涙目になりながらそう言うと、笑ってお辞儀をした。僕らは莉音に思い思いの言葉を告げると、最後にお約束の台詞をみんなで言った。
「寂しいけどおめでとう。お幸せに」
「ありがとう」
莉音は笑った。すると夏月ママが扉を開けてこちらに来て言った。
「莉音ちゃん。お迎えが来たわよ」
「はぁい」
莉音は夏月ママに連れられて部屋を出た。扉が閉まるまで、莉音は僕達に手を振っていた。もちろん僕達も手を振った。莉音が見えなくなるまで。
遠くで大人の女の人と男の人の声がした。それから暫くすると、車の走っていく音がした。
車の中の莉音が幸せそうに笑っている事は、閉められた扉だけを見ていてもわかった。
誰もが、いや、少なくとも僕ならきっと、そんな顔をするからだ。
「みんな、ごはんよ」
ベルの音と共に春子ママが言った。
僕達はいつものように、長くて大きなテーブルに並んで座った。
僕の斜め前の空いた莉音の席を見ながら、僕の頭の中で寂しいのと羨ましいのがまざったものがぶわっと出てきた。僕は頭を横に何度か振ってそれを頭から振り払って、みんなでいただきますをしてから、スプーンですくったコーンスープを頬張った。
最初のコメントを投稿しよう!