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「私の家、来てくれない?」
メイコは笑みを浮かべ、呟いた。生気を読み取ることのできない手が怖く、さつきの身体は震え出した。
「行って、何をするんですか?」
怯えるさつきを見て、メイコは笑った。
「ごめんごめん。安心して。ちょっと私の仕事、手伝ってもらうだけ」
「欲しい子、いっぱいいるからね。こないだの君みたいにダイレクトメールがいっぱいくるから。希望個数と、受け取り場所を私に教えて欲しいの。簡単でしょう」
メイコは「嫌ならいいけど」と言い、視線をフロントガラスへと外した。
「あなたのツケは既に十回分。利息つけて大体二十万ってとこかな」
金額を聞いた瞬間、そんなに使い込んだんだと思った。
「アテは?」
さつきは目を伏せ、小さく首を横に振った。ツケで良いと言われ、ストレスが限界を迎える都度お願いしてきた。
事実貯金は尽きているし、身寄りがなく誰にも借りられない。消費者金融かどこかで借りるつもりだった。メイコはため息をついた。
「あんたは、ウチらにとっちゃ良いカモよ」
「カモの心配なんて笑える話だけど」とメイコは万札四枚をさつきへ返した。
困惑するさつきに、メイコは低いトーンで続けた。
「さっきの話。今回から使えることにしてもいいけど」
断る術を失ったさつきは、お願いしますと呟いた。ここまできたら、ついてゆく他ない。もうこれで、私は表の世界に戻れなくなるかもしれないのに。
「決まりね、おいで」
SUVに乗り込むと、メイコからアイマスクを手渡された。
「これは……」
「場所、割られないように。念のためね」
さつきがアイマスクをつけて、少しすると車が動き出した。
脈が上がり、呼吸が浅くなる。とんでもないことに手をつけてしまった。
いずれ、これで最後と頭で念じ、さつきは無理やり目を閉じて、何も考えないようにした。
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