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精霊銃の試作品が、ある程度実用化に近いレベルのモノになってきた。
あたしはそれをドレスの中、太腿に括り付けて出歩くのが日常になる。実はあたし、身代金目的で攫われそうになったことが今まで5回ほどあるの。あたしの日常って、貴族様よりもよっぽど危険。かといって、常にボディーガードを付けて歩くのはとっても窮屈。
これまでのライフル型だと持ち歩きが難しかったけど、今の拳銃型は女性にも軽々と運べる。護身用にもってこいなところがお気に入り。
ふと、もうすぐ満月だな、と思い出す。狩猟を司る月の女神様が私の目の前に現れてくれる日。そして、もしかすると……アルと再会するかもしれない日。
なんとなくアルは今迄の人とは違っていた。あたしのことを、色眼鏡で見るような、みんなの「あの目」をしていなかった。
アルとはお友達に、なれるかな? あの日から、そんなことを考えてしまっている。
満月の日、あたしはやっぱり研究室にいた。ずっと仕事をしていたら、アルに会えるも何もない。会社と家の往復じゃ、会える人にも会えないわ。
その日の仕事を終え、溜息をついて家の馬車に乗り込む。
「ごめんなさい、パン屋さんで一度下ろしてくれる?」
ダメ元だけど、アルに会ったあのお店にまた行ってみようと思った。
パン屋の前には誰もいない。あたしは周囲を見回して、店に入った。店の中にも人はいない。
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