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そりゃそっか、約束なんて、していない。
あたしはがっかりしながら、諦めの悪い子どもみたいに暫く店内でボーっとして、それからいつもの黒パンを買った。我が家の馬車が、そこで待っている。
アルは……来ないのかな。
当たり前だ、と思うのに、また期待をして裏切られた気持ちになってしまう。あたし、なにやってるんだろう。
馬車に戻ろう、と思った時、月の加護が天から降ってきた時みたいな、キラキラとした力があたしの前に降り注いだ。
「なあに……? この、力」
驚いて周りを見回す。誰もいない。精霊らしき存在も見当たらない。
「ウィルダ。いつ会おうって約束をしなかったこと、ちょっと後悔した」
突然聞こえたその声に、あたしは目を見開いた。そして、そこには濃紺の髪を持つアルが立っている。
「どうやって……現れたの?」
「どうだと思う?」
アルが現れた後、グレーの髪の従者らしき男性もいつの間にか横に立っている。
「あなたにも、加護が?」
「そんなところ。ウィルダ。私たちは、運命的だと思わないか?」
アルが屈託のない笑顔で立っている。運命的って……最初に会った時にそう思ったのは、あたしの勘違いではなかったの?
「運命って……どんなものなのかしら?」
海の底のような暗い瞳にあたしが映っている。あたしたちは、向かい合って見つめ合っていた。
「あの、あたし、アルと会いたかったし、話をしてみたいと思っていたの……。でも……」
「ああ、家の人が待ってる?」
「ええ……」
アルはあたしの家の馬車を見て、なるほど、と頷いた。
「君は、今夜、祈りを捧げる?」
「……ええ」
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