満月の日

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「運命だって、言ったのは……友達って意味じゃない。そもそも、男女間で友達など」 アルはそう言ってあたしを軽く引き寄せた。腰に手を回されて、なんだかあたしたち、密着しているけれど……。 「男女間の友達には、否定的かしら?」 「困ったことに、私の生きて来た世界にそんなものは無かった」 「……平民の間では、そういうものもあるわ」 あたしはアルの顔が近くて、どうしていいか分からない。やっぱりアルからは、高貴な人の雰囲気がする。高級な香水の香り、手入れの行き届いた濃紺の髪、耳にはなんだか意匠の凝ったイヤーカフ。言葉を発する唇と表情が美しくて、こんな人はあたしの出会ってきた人種にはいない。 「ウィルダ、質問を変えるよ。私のお嫁さんになってみないか?」 「ちょっと待って。あたし、アルとはまだ出会ったばかりよ?」 アルは知らないのかもしれない。平民の間では、基本的に結婚っていうのは恋愛があってするものだ。貴族の場合は……心の伴わない政略結婚がほとんどだけど。 「でも君だって、運命だと思っているはず」 「運命って、そういうことなの?」 「太陽と月が結ばれるって完璧だよ。運命的だろう?」 アルの曇りのない表情から発せられたのは、あたしの知っている運命とは違っていた。なんだかがっかりして、あたしはアルの手を引きはがす。 「あなたが見ているのは、あたしじゃないのね」 結局、いつもこうなる。あたし自身を見てくれる人なんてどこにもいない。アルがそうなのかと思ったのに、実際は自分と同じ加護を持ったあたしに運命という誤解を抱いているだけだ。
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