満月の日

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あの時ライ麦の精霊と一緒にいて癒された心が、音を立てて壊れて行く。あれがアルだったなんて、知りたくなかった。 「順番が違うだけだ。私が見ているのは間違いなくウィルダだよ。でも、君の言う君自身のことは、これから知って行けば良いだろうと思ってる」 「それであたしのことを嫌いになったら?」 「ならないよ。精霊になって君と一晩を過ごした感想だけど」 アルの言っていることが、分かるような分からないような、でも、納得してはいけないような気分だ。月明かりに照らされたアルの目が、どんなに美しくたって騙されてはいけない。 「……一晩を過ごしただなんて、誤解を与えるような言い方をしないで頂戴」 「隣で眠る君を見て、ずっと抱きしめたいと思ってた」 「……あなた、思ったより危険な人ね」 「そう思わなかったら、ここにはいない」 アルの濃紺の髪が、夜の闇に吸い込まれて行きそう。月明かりを受けた姿が綺麗で、夜が似合う人だと思ったけど、やっぱり明るい太陽の下にいる方が似合いそうかも。 「それが、アルの言う運命なの?」 「概ねそうだな。婚姻とはそういうものだ」 「……なんだか納得できないわ」 納得はできないけど、嬉しくないことはない、かもしれない。出会ったばかりのこの男性は、あたしに運命を感じていて、あたしを抱きしめたかったと暴露した。 「私は、君が何者でも気にしないよ、ウィルダ」 「やあね、まるで犯罪者扱いをされている気分」 「身分とか、立場とか、そういうものには興味がないからな」
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