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「僕は、君が初めて発明した『月の灯(ライト)』みたいな、もっとみんなが平和になる発明に熱中して欲しいな」
「平和になるためよ。女が男の暴力に負けず、理不尽に負けない世の中を創るのよ」
「でも、ウィルダ、これは犯罪に使われるものだ」
「犯罪者に、多大な加護があれば、そうかもしれないわね」
あたしはマティアスの綺麗な金髪を恨めしく見ながら、自慢にもならない赤毛のポニーテールを解いて更衣室に向かう。ドレスに着替えるのは不本意だけど、男性用の乗馬服に身を包んでいるのが誰かに見つかったらお父様に叱られて謹慎処分が下る。
「マティ、いつまで付いてくる気? この先は女性用更衣室よ」
「ああ……ごめん。外で待ってる」
「勝手にして」
領主さまのご子息を邪険にするほど、我が家は位など高くない。あたしの家はいわゆる中流階級で、労働者階級に分類される平民だ。あたしの発明品のお陰で事業は成功し、お金ならいっぱいある。けど、貴族様とは位が違う。
マティアスはあたしに優しいけど、あたしたちは本来決して交わってはならない階級にある。貴族は貴族同士、平民は平民同士の付き合いが基本だ。
「ウィルダ、一緒に帰ろう。うちの馬車で送るよ」
「相変わらずね。ありがとう」
あたしは……どんなに優しくされてもマティアスに心を開きすぎるのはやめた。決して、この親切な幼馴染の好意を、誤解なんかしちゃいけない。相手は貴族様で、あたしは平民。ここには、決して埋まらない溝がある。
「あ、マティ……そこのパン屋さんで下ろしてくれる? なんだかお腹が減ったから何か買って帰るわ」
「じゃあ、待ってるから行って来なよ」
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