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「そういう話をするんなら、もうウィルダと会うのは止める」
そう言ったマティアスは、長い間知っていた幼馴染の優しい顔をしていない。
「そう。じゃあ、一方的に話すわね。あたし、プロポーズされたわ」
明らかに怒っていたマティアスは、あたしの言葉を聞いて絶句していた。あたしだって平民とはいえ年頃の女で、お金目当ての男の人が寄ってくることくらい知っているのに。マティアスも、あたしのこの告白が普段と違うのはちゃんと認識できるらしい。
「もしかして、それを受けるつもり?」
マティアスは心配そうにこっちを見ている。
「実はあたし……受けたいって、思っちゃったの。でも、相手のことがよく分からない」
「どういう状況なんだ、それ」
「よく知らない、会ったばかりの男の人よ。見た目だけで惹かれているのかしら? プロポーズをされた時、なんで嬉しいと思ったのかすら謎なの」
あたしは自分でも、こんな状況が信じられない。全然知らない男の人に惹かれて、2週間ごとに会う約束をしている。
「嬉しいと、思ったの?」
マティアスが傷付いた顔をしてこっちを見ている。私が今まで、お金目当ての男の人に言い寄られてきたことを詳しく知っているから、尚更だろう。
「思ったわ。嬉しかった。その人のことは全然理解できないのに、一緒にいたいと思ったの」
「相手は……誰?」
「それが、よく知らない人なのよ」
マティアスは納得するように頷くと、「おめでとう」と小さな声で言った。あたしは、マティアスなら反対すると思ったから、素直に祝われて気持ちが悪い。
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