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結局あたしは、アルがどこの誰なのかなんて分かっていない。恐らくちょっとした貴族の……自由奔放な三男坊とかそんな感じなんじゃないかなって思ってる。
我が家はその辺の貴族よりも裕福だ。だから、我が家の財産を頼って縁談を持ちかけて来た貴族だっていなかったわけじゃない。
でも、なんとなくアルは違う気がした。あの人は、あたしの財産や研究のことには、あんまり口を出さなさそうだ。
月の女神の加護を持っているだけで、あたしと結婚しようなんて思うかな。
アルの心が手に入るなら、こんな風に悩んだりしないのに。
新聞の取材も無事終わり、仕事を終えて家に帰ると、そこには意外な人がいた。
「お姉様? どうしたの? もしかしてお義兄様と喧嘩?」
もう何年も前に結婚して家を出た一番上のお姉様が、ソファに座って本を読んでいる。まるで当たり前のように過ごしているけど、お姉様には子どもだっている。
「何て言うのかしらね。ちょっと実家に帰って来たくなっただけよ」
お姉様は別に何でもないことのように言った。だけど、それが普通じゃないこと位は未婚のあたしにだって分かる。
「子どもたちは大丈夫?」
「ウィルダにそんなこと心配されるとは思わなかったわね。大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、大丈夫よ。ナニーさんたちがいるわ」
お姉様は無関心にそう言うと、読んでいた本を閉じてこっちを見た。
「あんたにはまだ分からないかもしれないけど、結婚生活って時々こうやって見直さなきゃいけない時があるの」
「ついでに聞くけど、なんで結婚したの?」
あたしの最近の疑問。なんでわざわざ他人と一緒になるのかしら。
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