147人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいのよ、気にしないで。もう家は目と鼻の先でしょ。今日くらい買い食いを許して頂戴。あたし、あなたと違ってお行儀なんて気にしていないから」
マティアスは仕方ないな、とでも言いたげな顔でこっちを見て、馬車を止めて私を開放してくれた。
「じゃあね」
そう言ってマティアスを見送ると、家の近所のパン屋に急ぐ。道を渡ってお店に入ろうとすると、男性二人組がこっちを見ていた。
「どうかしましたか?」
気になって声を掛けてみた。きっとこの辺の人じゃない、見たこともない二人組。一人はグレーの長髪をした男性で、もう一人は濃紺の珍しい髪をした短髪の男性。格好は普通だけど、やけに綺麗な人たちだ。
「いや、この人がお腹が空いたと言うのでパンでも買おうかと悩んでいたんです」
長髪の男性がそう言って困った顔をする。ふうん、このグレーの髪の人、年は20代半ばくらいだろうか……。
「じゃあ、買えばいいのに。あたしも買うところですけど、一緒にお店に入ります?」
そう声を掛けたら、濃紺の美男が嬉しそうな顔をした。何この人、どこかの飼い犬みたいだわ。
「いいのか? ほらみろ、女性が一人で入るくらいの気楽な店ではないか」
「アルは目立つから、あまりこういうところには連れてきたくないんですよ」
アルと呼ばれた20歳くらいのイケメンに、苦々しい視線を送っているグレーの人。いかにもお坊ちゃんと従者って感じ……。どこぞの貴族様かしらね。関わり合いにならないようにしようっと。
お店に案内して、アルと呼ばれた人にお薦めの黒パンを教える。ずっしりとした重みのある黒パンを見て、アルはなんだかはしゃいでいた。
最初のコメントを投稿しよう!