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新月の夜に徹夜をしたのは、ここ最近では珍しい事だった。
昔は精霊たちが周りにいるのに眠るってことに抵抗があったけど、仕事を始めたら起きていられなくなったから。
あたしは夜を徹してしまったから午前中は寝かせて欲しい、と使用人に伝えてベッドに身体を預ける。
眠くて堪らないのに、何故か意識が冴えていた。
眠ろう、と思うとアルの感触が蘇って、どうしよう、って眠れなくなる。
アルを思い出す度に、身体の奥から波みたいなものが襲ってくる。これが、本物の恋なのかしら。
アルと文通が出来ることになったから、きっとこの先は寂しい気持ちにならずに過ごせる気がした。
お父様とお母様に内緒で男の人と会っているなんて、なんだかあたし不良にでもなった気分。
もうすぐ、クリオス社から拳銃型の精霊銃が出る。
買う時に身分証明と精霊への誓約を必須にして、犯罪に使用する場合には引き金が引けないような仕組みが出来た。
やれることはやった。あたしもう、研究員は引退かもしれない。
アルに付いて遠くに行く未来が、恐らくあたしの運命なのだから。
そう思ったら、お父様、お母様、マティアスにも、さよならを言う時間が殆ど残っていないのだと気付く。
「みんな……あたしには、あと一ヶ月しか残ってないかもしれないわ」
そう呟いたら、睡魔がやってきた。
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