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新商品の発売
クリオス社から無事に拳銃型の精霊銃が発売された。
思った以上の反響があって、あたしは毎日取材対応で一日が終わる。こうしている間にも、アルのお使いが家に来ていないか気になったけど、へとへとになるまで取材を受けて、この拳銃が必要な人の元に届きますようにって、願って過ごした。
取材が落ち着き始めて休みを取った日、久しぶりのあの子が窓を叩く。
「ああ、待ってたわ。アルのお使いの子……!」
エメラルドグリーンの姿を見て、ここ数日の疲れが癒される。アルと会えるまであと1週間。こうして手紙で繋がっていられるのは嬉しい。
窓を開けて、アルの鳥があたしの腕に乗ってきたから手紙を外した。
『私のウィルダ
あれから、元気にしていたかい? 私は毎日準備が大忙しだ。ここ最近は人生で一番忙しい。ウィルダの手紙に返事をしなければ、と思ったのに間が空いてしまったな』
「いいのよ、あたしも、実は同じようなものだったの」
アルもあたしと同じように忙しくしていたのねって思ったら、戦友みたいで嬉しい。
『食べ物は、実は割と何でも好きだ。この間ウィルダに勧められたライ麦の黒パンも、肉も魚も。君が食べ物だったら、君が一番好きかな。得意なことは、狩猟だよ。女の人からの人気についてはノーコメント。だって、人気がないって書いたって信じてくれないだろうからね。ウィルダを好きになったのは、運命の悪戯みたいな偶然の重なり。人生には色々なアクシデントがあるけど、その中の一つだったと思う。
あと、君がなんで私を好きなのか分からないってことだけど。ウィルダに好きになってもらおうとそれなりに努力している。何をかって聞かれても教えないよ。
満月に近付く日々を励みに生きている アル』
あたしはくすくすと笑いながら、アルの手紙を読んだ。前よりずっとアルを近くに感じる。
文通をするようになって、アルのことを嫌いになったりしないだろうかと不安がないわけじゃなかった。でも、要らない心配だったみたい。
「返事を書くわね」
あたしは鳥に一言断って返事を書く。
あたしもこの数日はずっと忙しかったの、ということと、アルがそんなに計算してあたしのことを夢中にさせてくれていたなんて知らなかった、と書いて、エメラルドグリーンの鳥に託した。
鳥の姿が徐々に小さくなっていくのを見ながら、あたし、アルに好きになってもらえて幸せだわって思ったら、あの鳥がその想いを届けてくれるのかしらってドキドキしていた。
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