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実は、アルからの手紙がそこで途絶えた。忙しいと書いてあったから、きっと本当にそれどころじゃないのかもしれない。あたしは、アルの身体は大丈夫だろうかとか、忙しい中でどんな風に過ごしているんだろうって気が気じゃなかった。
アルの住んでいるところも、本名も知らないあたし。こちらから連絡を取る手段なんてない。
時々抜け殻になったみたいな気持ちで、あたしは毎日を過ごした。研究も、次に作りたいものが思い浮かばない。そんな時、お父様が研究室を訪ねて来た。
「ウィルダ、さっき、拳銃型の精霊銃の大量受注を受けた。相手は……この国だ」
「あら、国家から? 衛兵に持たせることにしたのかしら?」
「そうらしい。すごいぞ! ウィルダ。国から発注があるってことは物凄い名誉だ」
研究室に訪れた社長の姿に同僚のみんなは最初戸惑っていたけど、お父様の言葉にみんな歓喜した。
あたしたちの研究が、開発が、実を結んで国の役に立っている。
「お父様、またクリオス社が潤ってしまうわね?」
「いつも、ウィルダのお陰でな」
お父様は、黒に近い茶色の顎髭を撫でながら、言葉を失くしていた。月の灯を発売した時もそうだったけど、お父様はあたしの功績を心から喜んでくれる。
「違うわ。クリオス社の優秀な社員たちのお陰よ」
あたしは周りの研究員たちを見て、あたしだけだったらこんないい商品はできなかったってつくづく思う。
「そうだな。今度のボーナスは弾まなければ」
お父様がそう言ってにこりと笑うと、研究室のみんなは両手を上げたり、声を上げたり、本当に嬉しそうだった。
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