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「ありがとう。君のお陰でパンが買えたよ。私はアル。君は?」
「……ウィルダ」
「そっか。ありがとう、ウィルダ」
アルに握手を求められてしまって、なんだか断れずに手を出した。あたしの左手をアルが両手で握って嬉しそうに笑う。やだわ、こういう、距離が近い人。慣れ慣れしくてどうしていいか分からない。
「今夜は新月だね、ウィルダ。君と次に会うのは、きっと満月の日だよ」
アルは綺麗な顔を崩すことなくそう言うと、じゃあね、と言って町のどこかに消えてしまった。あたしはポカンと呆気にとられ、はっとしてアルに見惚れてしまっていたのだと気付く。
あんな風に不思議なことを言う男性になんて初めて会ったものだから、きっとあたし、驚いてしまったのだ。
アルに握られた左手をじっと見つめて、次は、満月の日って言っていたな、なんて彼の言葉を反芻した。
だって本当に満月の日に会えるなら……運命かもしれないって、思ったのよ。
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