月が満ちて

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寂しげな声を押し殺すように、アルはあたしの口を塞ぐ。あたしは、これだけでも十分に彼の愛情を感じる。 なんでかとかはよく分からないけど、これが女の勘ってやつだと思う。 アルは、あたしのことが好きで、あたしのことが欲しいって思ってる。 とても。 「夫婦になったら、きっと毎日、あなたの気持ちを確かめられるわね」 「……どうして前回、無理矢理にでも夫婦の誓いをしなかったのか、残念だ」 「あたし、アルの全部を受け入れる覚悟をしてるわ」 「……知っているよ」 かなり勇気を出して恥ずかしいことを口走ったのに、アルは「知ってる」と言った。 「ウィルダが、どれだけ強い意志で私と一緒にいてくれているのか、そこにとてつもない覚悟があることも、私は知っている」 「じゃあ、あなたの負担をあたしにも頂戴」 「だから、私がどれだけウィルダに感謝をしていて、どれだけウィルダを愛しているのか。それを伝えられたらって、ずっと歯がゆい」 アルがそう言って寂しそうな顔をする。 今日は満月の夜で、あたしはもうすぐ女神様に会わなきゃいけない。 つまり、あたしたちが一緒にいられるのは、もうすぐおしまい。 「でも、あと二週間であたしたち、夫婦になるのでしょう?」 「勿論だ」 アルの濃紺の髪が満月の夜に溶けた。 最後の言葉をあたしの耳に残し、あたしにアルの腕の中の感触を残したまま、ふっと姿を消してしまったから。 ねえ、アル。 覚悟はとっくに出来ているけど、あなたの抱える何か大きなものが、あたしたちを引き裂いたりはしないのかしら?  あたし、それがすごく怖いのよ。    * その日、あたしは女神様と話しながら心ここにあらずな態度になってしまった。 アルのことが気になっているのだと女神様に当てられてしまって、素直に認めて謝った。 女神様は笑いながら許してくれた。 「女神様……あたしもうすぐ、その人と結婚するの」 人間の感覚とは違う女神様から何て言われるのか気になって、その話をする。 「ええ、知ってるわよ。大丈夫大丈夫、悩んでないでとっととすれば、案外どうとでもなるものだから」 根拠のない大丈夫を、神様の口から聞いてしまった。 夫婦の誓いをするのは太陽神様と女神様が相手だから、反対されることはなさそうで良かったのかしら……。
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