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心の準備
満月の日が終わって、いよいよアルと夫婦になる日が近付いている。
あたしはあまりにも心の準備ができなくて、同い年で既に結婚したお友達の元を訪れた。そうしていないと、何をしたらいいのか分からないうちにどんどん時間が経ってしまいそうだったから。
「ごめんね、メリ―。どうしても気になったことがあったの」
「世界的発明家で、最近新商品も出して忙しそうじゃない? いいの? こんなところで主婦相手に油を売ってて」
彼女は、同じ学校で過ごした女友達。長い栗色の髪に整った綺麗な顔。学生時代はそれこそみんなの視線を釘づけにしてしまうような子で、男性陣に人気だった。
そんな彼女も半年前に平民同士の結婚をした。旦那さんは私も良く知る同級生で、学生時代から恋人同士だったのを知っている。
「ええ、実は……あたし、結婚するつもりで」
「うっそ! 羨ましい。相手は玉の輿ね!」
「……どうしてその感覚なのよ」
メリーの家の小さなリビングで、あたしたちは二人きり。ソファに並んで座ってお茶を飲んでいる。旦那さんは仕事に出ているから今はいない。
「まさか、領主さまのところのマティアスじゃないわよね?」
「違うわ。メリーの知らない人よ。ついこの間、出会ったばかりなの」
「電撃結婚? 訳あり?」
「……実はね、そんな感じ」
メリーの淹れてくれたハーブティを飲みながら、お茶菓子で出されたクッキーをつまむ。あたしが遊びに行くと言ったら急遽焼き菓子を焼いてくれるなんて、本当にすごいわ。
「親に内緒なんでしょ?」
「……なんでそんなことが分かるの?」
「分かるわよ。あなたのとこは平民でもちょっと特殊だもの」
当たり前のように言われて、それなりにショックも受ける。学生時代はそんなこと直接言われなかったけど、やっぱりあたしの家は特殊だって思われていたのね。
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