心の準備

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結局、アルからの手紙はその後途絶えた。 このまま、新月の日まで何の連絡もないのかもしれない。 そう思ったら、あたしとの婚姻のために奔走しているらしいアルが、何かいけないことをしていないのか気になってしまう。 貴族と平民ってそう簡単には結婚できない。だから、アルは苦労してるんだろう。 普段のあたしだったら、やっぱり住む世界が違うのよ、って簡単に諦めてしまっていたと思う。でも、もう、アルを諦めることなんかできない。 本当にアルと結婚できるのかしらと不安になるし、本当に結婚できるなら、この先どうなるのかと不安になる。 多分、あたしお父様に勘当されて、クリオス家の敷居は跨げなくなる。 だから、クリオス社の仕事とも、もうすぐお別れだわ。 「ねえ、お母様」 夕食の時に、いつも一緒に食事をするお母様に話しかけた。 「お母様がお父様と結婚したのはいつって言ってたかしら?」 あたしの質問に、スープを飲もうとしていたお母様の手が止まる。 薄緑色のポタージュを掬った丸いスプーンが、器用に空中で止まった。 「どうしたのよ、急に?」 「いえ、気になっただけよ」 気を取り直してスープを飲み込んでいた。 「あなたと同じころよ。18歳で結婚して、ソフィーを産んだのはその1年後」 「恋愛結婚?」 「そうね、当時はお父様も貧乏だったから」 「貧乏だったお父様って、魅力あったの?」 「そりゃ、当時は……」 そう言ってじろりとあたしを見たお母様は、 「何よ、私の見る目があったから、あなただってこんな裕福に生活できているのよ?」 と言ってスープを飲み続けていた。
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