新月の夜

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新月の夜

「ただいまあ」 「ウィルダ様! また一人で出歩かれたのですか?」 家に到着して、最初にあたしに声をかけるのは使用人のジル。うちは平民で階級は低いけど、屋敷も大きくて使用人も雇っている。平民なのに家に着くとお嬢様扱いなのよね。 「別に、すぐそこのパン屋さんに寄っただけよ? それまでは、マティアスが一緒だったわ」 「左様でございますか……、マティアス様も、相変わらずウィルダ様の側にいらっしゃるのですね」 「まあ、幼馴染だからね、向こうは自分の立場が分かってないかもしれないけど」 「本日は、新月ですね」 「ええ、これから祈りを捧げるわ」 新月の日は、月の(ライト)も点かなくなる。街灯が光を失った町は真っ暗になり、精霊や妖精が飛び回って、とても神秘的で美しい夜。 ちなみに、普通の人には精霊は見えない。妖精は、本当は誰にでも見えるらしいけど姿を消して生息している。 勿論、あたしには全部見える。夜限定だけど。 新月の日の翌日、この国は国民の休日になる。そしてあたしは、新月の夜に真っ暗闇で女神さまに祈りを捧げる。 あたしの名前は、ウィルダ・クリオス。お父様の経営するクリオス社の研究員でもあり、世界的発明家でもあり、月の女神様の加護を持っている。 この国には、神様に祈り、精霊を信仰する習慣があるのだけれど、実際にその加護を持っている人は少ない。私みたいに女神様の加護を持って生まれて来たような人には、今迄会ったことがない。 そんなわけで、その加護を活かしてあたしは発明をした。
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