140人が本棚に入れています
本棚に追加
/144ページ
アルはテキパキと着替え始めて、この部屋に着いた時の軍服に身を包んだ。
あたしたち、折角誓い合ったのに、またお別れなのね。
アルの軍服についた紋章に、見覚えがある気がして引っかかった。あれは、何だったかしら。
「じゃあ、数日後に」
アルはそう言って、完璧な軍服姿であたしにキスをして、また消えてしまった。
あの人があたしの夫なんだと思ったら、あまりに現実離れしている気がする。
でも、頭の中はこの数時間に起きたことでいっぱいいっぱいで、難しい事なんか何にも考えられなくなっていた。
*
そのまま、ずっと部屋に籠っている。
使用人には体調がすぐれないと嘘を付いて、ベッドにずっと身体を埋めていた。
ここに、少し前までアルといたんだって思う度に、断片的な記憶が身体を走って動けない。
あっという間に夕方になって、一日が終わって行った。
こんな何もしない日って、久しぶり。
お父様もお母様も、ここ数日は新商品の発売で忙しかったんだから、とあたしを気遣ってくれた。
まさか娘が勝手に男性と夫婦の誓いをして、契りまで交わしていたなんて知ったらどう思うのかしら。
すごく悪い子になった気分。
あたしは、次に起きる自分の運命の事なんかさっぱり忘れ、アルの余韻に浸っていた。
最初のコメントを投稿しよう!