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幸い、先立つものは比較的潤沢にある。
何年か働かずに身を隠しながら過ごすことだってできる。そう思って、自分の部屋にトランクがあるのを思い出した。あれを持って、家を出よう。
急いで自分の部屋に行った。馬車はどうしよう。
家のもので家出をするわけにはいかない。そう思ってトランクを持って部屋を出た時、外が一気に騒がしくなった。
「ウィルダ・クリオス、いるんだろう?!」
——大声で、あたしを呼ぶ声がする。
我が家の広い庭に、王国の衛兵が並んでいる。呼ばれたのは、あたし。
驚いて外に出て行ったお父様に、ダメよ、と焦って急いで外に向かう。不敬を働いたら、お父様が罪人になってしまう。
「うちのウィルダがどうしましたか!?」
お父様は大企業の社長をしているだけあって、衛兵が並んでいる様子にも動じずに立っていた。
「どうしたのかは、お嬢様が一番ご存じでしょう。王家の血を穢す、娘様ですから」
既に衛兵の口からそんな言葉を言わせてしまって、駆け付けたあたしはお父様の前で膝をつく。
「悪いのは、あたしだけです。お父様には関係ありません」
お父様は驚いて、あたしが何をしたのかと目を見開いている。こんな形で、お父様の顔に泥を塗りたくなんかなかった。
「あたし一人で充分ですよね?」
事の重大さを分かっていないわけじゃない。衛兵に後ろ手に拘束され、その場から連れられる。
「ウィルダ!」
お父様が叫んでいる。あの度胸の据わったお母様まで、混乱して泣いている。
「大丈夫よ、お父様。あたしのことは心配しないで。お母様も、泣かないで」
最後にそう言って二人に精一杯の笑顔を送る。衛兵はあたしをロープで拘束して、荷馬車の荷台に転がした。そのまま、馬車が走り出す。
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