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あたし、全てを捨ててアルに付いていく覚悟をしていた。
でも、アルを捨てる覚悟なんか一ミリだってしていない。
「アルは、あたしの夫よ!!」
仄暗い地下牢にあたしの怒号が反響した。
そして、あたしの身体に沁み付いていた強い加護が、周囲に走ってチカチカとした火花を散らす。
「あたしたちを、引き離さないで!!」
絶叫に近い声を上げた。
あたしを繋ぐ鎖と手枷が火花と共に千切れる。
鉄格子は握れば溶かせるわ、と本能で思った。
手が熱いのが分かったから、その手を鉄格子に当て、柵を曲げる。
「……何を、している……」
牢から出たあたしに、すぐ側にいる衛兵のおじさんは拳銃型の精霊銃を構えていた。
バカね、その銃が……あたしに効くはずがないのに。
「その銃を作ったのが、誰か知らないわけじゃないんでしょう?」
あたしは衛兵のおじさんに語り掛ける。おじさんはハッとして腰に差した剣に持ち替えようとした。
あたしは、その腰に格納されかけていた精霊銃を咄嗟に取り上げる。
「あたしに精霊銃を持たせたら、無敵よ」
衛兵のおじさんに銃口を向ける。おじさんは、持っていた剣を手放して両手を上げた。
*
あたしは一人捕虜を手に入れて、城内を歩く。
「ねえ、あたし別に変なこと言ってないわ。アルはどこかって聞いてるのよ」
「……」
「撃つわよ」
「も、申し訳ございません、存じ上げません……」
確かに、イチ衛兵が王子様の居る場所なんか知らないのかもしれない。
階段を上り続けていたら、地下が終わりそうだった。
このまま進んでも、また衛兵に囲まれる。……捕虜一人で乗り切れるかしら。
精霊銃、こんなことなら連射機能を充実させればよかった。後の祭り。
地下が終わって、明るいフロアに出た。
赤い絨毯の敷かれた廊下。周りにあまり人の気配がしない。
困ったことに、どこに向かえばいいのか、何をすればいいのかノープラン。
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